更新日:2026年07月14日
公開日:2026年07月16日
「あんな人に自分もなれたら」
街中でふと見かけたすてきな振る舞いや、仕事で出会った人のスマートな生き方に触れた時、そんな憧れを抱くことはありませんか。「自分もあんなふうに生きたい」、そう理想のイメージを思い描く瞬間は、いつもより背中がしゃんとする気がします。
このブログでは、力んだ自己啓発書とは違い、無理なく一歩ずつ理想に近づくための道しるべとなってくれる「ロールモデル」という存在について解説します。
ロールモデルとは、考え方や行動・生き方の「手本・お手本になる人物」のことを指す言葉です。
ビジネスの現場では主にキャリア形成の指針となる人物を指すことが多いですが、ロールモデルは決して仕事に限った話ではありません。日常生活や子育て、ご近所付き合いなどあらゆる場面で「あんなふうに年齢を重ねたいな」「あの人の生き方がすてきだな」と感じるお手本を見つけることはできます。
道徳教育研究の第一人者で、元皇學館大学教授の渡邊毅さんはロールモデルについて次のように述べています。
具体的な人物の言動に触れることで「自分もこうありたい」「自分にもできるかもしれない」という感情を抱きやすくなる。(中略)
(渡邊毅『道徳は最強の「生存戦略」である』)
ロールモデルの存在は困難な状況に直面した際の指針ともなり、自らの判断や選択に確信を持つための支えにもなる。
「こうなりたい」という具体的なイメージを自分の中に持つことで漠然とした不安を減らし、日々の行動の方向性を定まりやすくしてくれる存在、それがロールモデルです。
ロールモデルと似た言葉に「メンター」があります。メンターとは、自分に直接指導や助言をしてくれる助言者や相談役のことです。直接コミュニケーションをとりながら、自分の状況に合わせて具体的なアドバイスをもらいます。
一方で、ロールモデルは必ずしも面識があるとは限りません。テレビの向こう側で活躍する著名人や歴史上の人物でもロールモデルになり得ます。
「この人に直接相談する」のがメンターであり、「この人の生き方や行動を手本にする」のがロールモデルです。両者を組み合わせることで、より自分を成長させるための環境をつくることもできます。
近年、ロールモデルという言葉がよく聞かれるようになった背景には、働き方や価値観が多様化し、正解が1つだけの時代ではなくなっていることが挙げられます。
ひと昔前であれば、会社に入って定年まで勤め上げる、あるいは結婚して家庭に入るといった、いわゆる標準的な幸せのルートが存在していました。しかし今は、もちろん非道徳的な行動を慎むべきなのは言うまでもありませんが、それぞれが自分なりの幸せを見つけられる時代です。
特に女性のキャリア形成においては、出産や育児、介護といったライフイベントと仕事の両立など、手本となる先輩の事例がまだまだ少なく、「どう歩めばよいか」と迷いが生じやすいのが現実です。
「自分にとっての正解は何か」を一人で考え続けるのは、とてもエネルギーがいることです。だからこそ、自分に合った生き方を見つけるための「尊敬」や「あこがれ」として、ロールモデルへの関心が高まっています。

では、実際にロールモデルを設定することで、私たちの日常にどのようなよい変化があるのでしょうか。
職場で後輩のミスを注意しなければならない時や、家庭で子供が言うことを聞かずにイライラしてしまった時。日常の中には「この場でどう振る舞うべきか」「この言葉を相手にどう伝えるべきか」と判断に迷う場面があります。
そのような時、自分の中のロールモデルを思い浮かべ「あの人ならこんな時、どのような言葉をかけるだろうか」と一呼吸置いて考えることで、感情に流されない行動が取りやすくなります。
目標が抽象的な「優しい人」ではなく、具体的な「あの人」という人物像になることで、真似や実践がしやすくなるのです。漠然とした「こんなふうになれたらいいな」が、日常の具体的な行動に落とし込めるのが大きなメリットです。
「自分より能力の高い人」や「品格のある人」をロールモデルにし続けることで、自分自身の成長スピードが上がります。
人は何か新しいことや課題に直面した時、ゼロから一人で答えを探そうとすると、無数の失敗を繰り返し、不要な回り道をすることになります。しかし、すでにその道を歩んでいるお手本の行動を観察し真似ることで、試行錯誤の手間を減らし、効率的に成長することができるのです。
特に入社間もない若手社員にとって、身近な先輩をロールモデルにすることは、ビジネススキルや職場での振る舞いを身につけるための近道になります。
もちろん失敗を経験することで学ぶこともたくさんありますし、自分で痛い目を見て初めて腹に落ちることもあるでしょう。けれど、すべての壁を自分の体当たりだけで乗り越えようとすると、心も体もいくらあっても足りなくなってしまいます。手本をよく見て、そのエッセンスを借りる。それは決して努力をサボることではなく賢い知恵です。
「よし、今日からは懐深く生きよう」と決心しても、次の日にはまた声を荒げて自己嫌悪に陥る。そんな経験はないでしょうか。
一人で目標に向かって歩き続けるのは孤独であり、挫折しやすいものです。憧れの人物の存在は、そんな時に努力を続ける原動力になります。「今でこそ穏やかなあの人もきっと、同じような壁を乗り越えてきたはずだ」という思いが、心が折れそうな時の支えになるのです。また、多様な背景や価値観を持つロールモデルを心に置くことで、「あの人にもできていたのだから、自分にもできるかもしれない」と、挑戦の可能性が広がりやすくなります。
ロールモデルと自分を比較すると、自分に足りないことが見えてしまい落ち込むこともあります。しかし、それは裏返せば「自分はあの人のどこに惹かれるのか」を知ることでもあるのです。
例えば、「仕事ができるから」ではなく「どんなに忙しくても人への配慮を忘れない姿勢」に惹かれているのだと気づけば、あなたが本当に大切にしたい価値観が見えてきます。ロールモデルを設定することで、他者への憧れを通して、自分の強みや弱み、心の奥底にある価値観が明確になっていきます。自己理解が深まれば、より自分に合ったキャリアや生き方を選択しやすくなるでしょう。
ロールモデルとする人が歩んできた道を知ることで、自分の10年後、20年後を具体的に描きやすくなります。
「育児と仕事を両立しながら、ユーモアを忘れないあの人」のような身近な事例は、自分のビジョンを形にしていく際の助けとなります。人生の岐路に立った時、あの人ならどちらを選ぶだろうか、どういう考えで決断したのだろうかと想像することが、あなた自身の将来を選択する際の貴重な判断材料となるはずです。
反対にロールモデルがいないと、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
目標とする人物像がないと、「とりあえず今の仕事をこなす」「とりあえず今日を乗り切る」という漠然とした状態に陥りやすくなります。具体的なゴールイメージがないため、困難な場面やストレスのかかる状況で踏ん張る理由が見つからず、次第にモチベーションが低下し、心が折れてしまう原因になります。
「本当はどうなりたいのか」という目標が曖昧なまま毎日を過ごしていると、気づいた時には自分が望んでいない方向に進んでしまっていたなんてこともあるので注意が必要です。
お手本がない状態では、何から学べばよいかが分からず自己流で試行錯誤するしかありません。そのため、どんなことをするにも時間がかかってしまいます。
また、目指すロールモデルがいないということは、いわゆる「井の中の蛙」になりやすく、「自分はこんなにできている」と現状に満足して成長が止まってしまうリスクもあります。無意識のうちに自分の成長の上限を自分で設定してしまい、本来持っている可能性を発揮できないまま終わってしまうかもしれません。
ロールモデルがいないと、人生の岐路に立った時の判断に迷うことが多くなります。
「このまま今の会社にいていいのだろうか」「家庭と仕事のバランスをどう取ればいいのか」。特に女性のキャリア形成では、先例の少なさがそうした将来への不安や迷いを大きくしがちです。迷い、決断を避けて行動が先送りになり、結果的に現状維持にとどまってしまうことが少なくありません。
憧れや目標となる人物は、折に触れて「自分もこんなふうになりたい」という欲求を刺激してくれます。
その刺激がないと努力を続けるためのエネルギーが不足してしまいます。「一体なんのためにこんなに頑張っているのだろう」と自分なりの答えを見出せない状態ですから、意欲はあっという間に下がってしまいます。ロールモデルがいないと、壁にぶつかったときに「もういいか」「自分には無理」とさらっと諦めてしまいます。
比べる基準となる人物がいないと、自分の成長や立ち位置を客観的に把握することが難しくなります。「自分は誰よりも優れている」と過大評価してしまったり、逆に「自分は何をやってもダメだ」と過小評価してしまったりと、自己認識が歪んでしまうことも。適切なロールモデルがいることで、等身大の自分を見つめ、冷静な自己評価がしやすくなります。
職場においてロールモデルを持つことは、自身のキャリアを具体的にイメージする手がかりになります。
特に若手社員にとって数年先を歩む先輩の存在は、「自分も数年後にはあんなふうに働けるようになりたい」という成長の道標になります。
一方、企業側も社員が日々の業務に追われる中で、「自分はこのままでいいのだろうか」「10年後、自分はどんなふうに働いているのだろう」といった、将来への不安を一人で抱え込ませないように努力をしなければいけません。
企業側が「育児や介護をしながら働く先輩」や「失敗を糧に成果を上げている上司」など、多様な生き方や働き方のロールモデルを意識的に見える化することは、社員の見えない孤立を防ぐためにとても大切な意味を持ちます。さらに、成功事例だけをアピールするのではなく、それぞれの等身大の葛藤や歩みを見せる取り組みは、社員にとって「この会社には、自分の未来の選択肢が確かにあるんだ」という安心感につながります。
身近に目標となる人がいることは、日々の業務への取り組み方を前向きにし、人材育成や離職防止にもつながるとされています。
多くの人にとって最初のロールモデルは「親」です。親の何気ない日常の言動や、他者への接し方が、子供の価値観形成に大きく影響を与えます。
だからといって、「完璧な親でなければならない」と気負う必要はありません。親自身が「こう生きたい」「こんな人でありたい」という自分自身のロールモデルを持ち、失敗しながらも理想に向かって生きようとする姿勢そのものが、子供への良い影響につながります。
また、家庭内だけでなく、地域の大人や先生など多様な大人の生き方に触れさせることが、子供のロールモデルの幅を広げる機会になります。
自分にとって「この人だ」というロールモデルはどのように見つければよいのでしょうか。ポイントをご紹介します。
ロールモデル探しの出発点は「自分自身を見つめ直す」ことです。自分が何を大切にしているか、どのような生き方をしたいかを整理してみましょう。
「仕事で出世したいのか」「家族との時間を最優先にしたいのか」「穏やかに人と関わりたいのか」。価値観が明確なほど自分に合った人物を見つけやすく、方向性がブレにくくなります。
自己分析が浅いまま表面的な成功事例だけをロールモデルに設定してしまうと、他者の理想に引きずられてしまい、「自分の進む道は本当にこれでよかったのかな」と後々迷いが生じてしまいます。
ロールモデルは、職場の先輩や上司、家族、友人など身近な人の中から探すのがおすすめです。
身近な人であれば、日常的にその人と接することができるため、表面的な成功だけでなく、困難な状況に直面したときの態度や周囲への気配りといった「あり方」まで深く参考にできます。
1人の完璧なロールモデルを見つけようとする必要はありません。
「Aさんの仕事に対する真摯な姿勢はすばらしいけれど、家族との関り方についてはBさんをお手本にしよう」というように、複数のロールモデルからいいところだけを取り入れるという選択もあります。すべてをその人の通りに真似る必要はなく、自分に合った部分だけを選択的に参考にするのです。複数のロールモデルを持つことで、場面ごとに適切な指針を持てるようになります。
身近な人間関係の中に「この人」という存在が見つからないときは、視野を少し広げて、本やインターネットの記事、あるいはSNSの発信などに目を向けてみるのもよい方法です。直接コミュニケーションをとることはできなくても、他者が紡いだ言葉の中に、生き方の参考にできることが隠されていることは少なくありません。
私たちの心や置かれた環境は、ライフステージとともに変化していきます。そのため、自分の成長や変化に合わせて、ロールモデルも更新していくことが重要です。
メジャーリーガーの大谷翔平選手が、2023年のWBC決勝戦の前に、張り詰めた空気のロッカールームでチームメイトに向けて語った言葉があります。
「僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう」
決勝の相手は、まさに野球の母国であり、世界最高峰のメジャーリーガーが集まるアメリカ代表でした。目の前には、野球好きなら誰もが一度は耳にし、大谷選手自身も子供の頃から憧れ、その背中を追いかけ続けてきたスーパースターたちが並んでいます。
試合前の短い円陣の中で、大谷選手はこう続けました。
「憧れてしまっては超えられないので。僕らは今日超えるために、トップになるために来たので、今日1日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう」
長年憧れていた大切なロールモデル。しかし、同じ舞台に立ち、自分たちが目指す頂点へ進もうとするとき、その「憧れ」を一度手放したのです。
私たちの日々の暮らしも同じかもしれません。自分の成長とともに、お手本にしていた先輩や心の支えにしていた誰かのやり方を離れ、自分の頭で考え、自分の足で歩み始める瞬間が訪れます。それは今までのロールモデルを否定することではなく、自分が確かに成長し、次のライフステージへと進んだ証です。

最後に、どのような人がロールモデルになりやすいのか、いくつかの例を挙げます。自分が目指す生き方や働き方をしている人であれば、どのような人物でもロールモデルになり得ます。
最も具体的で実践的な学びを得やすいのが、職場の先輩や上司です。日常的に仕事ぶりを身近で見ることができるため、「あのお客様への対応、とても丁寧だったな」「トラブルの時のあの落ち着きは見習いたい」と、すぐに真似ることができます。
特に2〜3年先の先輩は立場が近く、コミュニケーションも取りやすいため、どうしてあの行動をとったのか、その背景や考え方を直接聞ける点が大きな強みです。
最も身近な存在である親や家族は、生き方や価値観に大きな影響を与えます。
子供の頃は反発していた親のやり方も、自分が大人になり、親と同じように子育てや仕事の壁にぶつかった時、「あの時の親はこんな気持ちだったのか」「あんなふうに自分たちを育ててくれたのはすごいことだ」と気づき、改めてロールモデルとして尊敬の念を抱くことも多いものです。家族の中に「こうありたい」と思える人物がいると、日常の行動指針が自然と定まりやすくなります。
書籍やインタビュー、SNSを通じてその考え方や行動原則を学べる著名人や経営者もロールモデルになります。彼らが語る挑戦やどん底での失敗をどう乗り越えてきたかというストーリーは、私たちに困難に立ち向かう勇気を与えてくれます。
ポイントは、業種や職種が全く違っても、その人の生き方や、困難に立ち向かう姿勢に共感できる人物を選ぶこと。つまり、能力や実績の高さだけでなく、その根底にある「人間性」に目を向けることが大切だということです。ビジネスのスキルや知識を真似ることももちろん大切ですが、それ以上に「どのような心持ちで人と接しているか」「誠実であるか」といった内面的な人格に惹かれる人物をロールモデルにしてみてください。スキルや知識は時代によって必要なことが変わりますが、人格は時代に左右されない軸として人生を支えます。
時代を超えて語り継がれる言葉や生き様は、現代の悩みにも普遍的な示唆を与えてくれます。
現実の人間関係では、どれほど尊敬している人でも、ふとした瞬間に幻滅してしまったり、関係性が変わってしまったりすることがあるものです。人の生き様というものは、それこそ人生の最後の瞬間までどう変化するか分かりません。だからこそ、すでに最期を迎え、その生涯のすべてを知ることができる歴史上の人物は、客観的にその人となりを知ることができるという大きなメリットがあります。
自伝や歴史エッセイをひもとき、「この人は人生の荒波や孤独の中で、どうやって心の穏やかさを保ったのだろう」と生き方のプロセスをなぞってみてください。すると、「あの人なら、ここで一度立ち止まるかもしれない」「ここでこういう対応をしたから人生が好転した」と、大局的な視点から物事を見ることができるので、大きな判断をする際のヒントになります。
同じ時代、似たような境遇で活躍している人の存在は、「あの人ができているのだから、自分にもできるかもしれない」というリアルな希望になります。
最近ではSNSや身近なコミュニティの中で、等身大のロールモデルを見つけやすくなっています。雲の上の成功者よりも、「少しだけ先を行く同世代」のほうが、今日から真似できる具体的な行動の参考にしやすいこともあるでしょう。
ロールモデルとは、あなたにプレッシャーを与える存在ではありません。進むべき道に迷った時や自信をなくした時、「こっちだよ」と足元を優しく照らしてくれる灯りのような存在です。心が折れそうな時でさえも「あの人なら、この壁をどうやって成長のチャンスに変えるだろう」と問いかけられる存在がいれば、次の一歩を踏み出す勇気が得られるはずです。あなたにとってのロールモデルの良いところを少しずつ吸収し、自分の生き方をアップデートしていきましょう。

\ 監修者 /
富田裕之
公益財団法人モラロジー道徳教育財団コンテンツ開発局長として「心豊かな生き方・働き方」をテーマとしたコンテンツ制作に従事。「正しいのはわかっているけれど、現実では難しい」そんな日常の葛藤に寄り添い、毎日を少しずつアップデートする、温かくも本質的なヒントを届けている。中小企業診断士。キャリアコンサルタント。

\ 執筆者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ
ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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