2023年10月31日
――そんなふうに言われる人って、なんとなく「心が温かくて、素敵な人なんだろうな」という気がしませんか?
今回は「人間性を養うための心がけ」について考えてみましょう。
人間性とは、人間が持つ特有の性質をさします。ほかの動物にはない、人間ならではの性質といえば、思いやりや共感、創造性、考え方といった要素が挙げられるでしょう。
人間性は生まれつきの部分もありますが、経験や環境によって育まれるものでもあります。また、自己反省や成長へ挑戦という姿勢も、人間性の重要な一面です。
人間性を見つめ直すことは、自分自身と他者を見つめ、よりよい未来を創造する第一歩となります。
人間性と似た言葉に「人間力」があります。
人間が備えている特有の本質・性質を意味する「人間性」とは違い、人間力は「自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」を指します。
例文を参考に具体的な違いを見てみましょう。
「あんなことをするなんて彼の人間性を疑う」という言い方はよくされますが、「人間力を疑う」とは言いません。また「人間性が垣間見える」とはいいますが「人間力が垣間見える」という言い方もしないでしょう。これら例から分かる通り、「人間性」という言葉には、「人間であれば、どんな人にも必ず備わっている特性」という意味があることが分かります。「人柄」や「品性」という言葉に近いニュアンスがあります。
一方の人間力は「総合的な力」であり、本人の工夫や努力によって「高められていく力」という意味合いが強いのが特徴です。
一般に「人間性が高い」と言われるのは、具体的にはどのような人でしょうか。その特徴をいくつか挙げてみます。
相手の立場に立って考えることができる人。それは、言い換えれば「思いやりのある人」ということでしょう。
もし自分が相手の立場だったら、どんな気持ちになるか。何をされたら嫌だと思うだろうか? 反対に、何をしてもらったらうれしいだろうか?――そうしたことに、いつも思いを馳せることができるのが「思いやりのある人」でしょう。
それは他の動物にはない、人間のみに与えられた大切な能力なのです。
「感謝」というのも、人間特有の心のはたらきといえます。
「ありがたい(有り難い)」とは、「そのように有ることが難しい」という意味です。それは「当たり前ではない」ということでしょう。
あれがない、これがないと「足りないもの」を数え上げればきりがなく、そうするほどに心はすさんでいくようです。それとは対照的に、自分に与えられた環境、誰かが自分のためにしてくれたことなど、何事に対しても「ありがたい」という感謝の気持ちで受け止める人は、すばらしい人間性の持ち主と言えるのではないでしょうか。
仕事を任せたら、誠実にやり遂げてくれる人。周囲に対して常に目を配り、必要とあらば「誰の仕事でもないけれど、誰かがやらなければならない仕事」にも率先して取り組もうとする人……。私たちはそんな人に信頼を寄せ、安心感を抱くでしょう。
そのポイントは責任感です。私たちの社会生活は、責任感のある人に支えられてこそ、うまく機能するのです。
仕事ができる人が、現状に甘んじることなく努力を続けている姿。年齢を重ねた人が、なお生き生きとして新しいことを学び取ろうとしている姿……。そのような姿を「素敵だな」と思いませんか?
常に向上心を持って、謙虚に努力を続けることができる人。それもまた、豊かな人間性の持ち主の特徴です。
「思いやり」や「感謝」の気持ちを忘れず、「責任感」や「向上心」を兼ね備えた人の周囲には、温かい人間関係が広がっていきます。周囲から集まる信頼は「人間性の豊かな人」の証しと言えるでしょう。
マナーや礼儀とは「形式だけで意味のないこと」ではありません。私たちの社会生活や人間関係を円滑にする上で合理的であるからこそ、生まれたものです。
その行為に込められた本来の意味をきちんと理解しており、特に「相手の人格を認め、相手に対する尊敬や感謝の気持ち」を大切にしている人のふるまいには、どことなく安心が感じられるはずです。
仕事の期日から日常の口約束まで、どんな約束でも必ず守ること。それは当たり前のようではありますが、どんなに小さなこともおろそかにしない人には、やはり安心感がありますよね。
周囲に安心をもたらすことができる人は、豊かな人間性の持ち主と言えるでしょう。
日常生活の中では、意見の衝突をはじめとして「自分の思うようにならないこと」も起こるものです。
豊かな人間性の持ち主は、そんなイライラ、ギスギスしてしまうような場面でも、感情を波立たせることはありません。そうして事態を穏やかに受け止め、冷静に解決の手がかりを探ろうとします。
一方、世間では「人間性を疑う」といった表現を耳にすることがあります。これは「人間性が低い」ということでしょう。そのように評される人には、どのような特徴があるのでしょうか。
自分さえ良ければ、他人の迷惑などお構いなし。そんな人は、間違いなく人間性を疑われます。
自己中心的に物事を考える人同士の間では、絶えず衝突が起こることになります。それは自分にとっても相手にとっても、さらには周囲の人たちにとっても、決して心地良い状態とは言えません。
悪口とは、自分が言われたら不愉快であることはもちろんですが、たまたまそれを耳にした第三者にとっても気持ちの良いものではありません。その場に広がった嫌な雰囲気は、周囲の人たちの心にも良くない影響を及ぼします。
万が一にも悪口に打ち興じているとしたら、自分の口から発した「良くない言葉」を一番近くで聞くことになるのは自分の耳であるという点も、心に留めておきましょう。
責任感がなく、自分のやるべきことも他人任せで、約束を守らない……。もしそんな人と一緒に仕事をすることになったら、どうでしょう。信頼できない、安心できないというだけでなく、仕事の進行そのものに支障をきたすことにもなりかねません。
嘘をつくという行為は、不誠実さの最たるものでしょう。「あからさまな悪意があってついた嘘」というわけではなくても、その場を取り繕うために口から出任せを言ったりすることも、信頼を失うもとになります。
機嫌が良いときはともかく、ちょっとしたことでイライラして、不機嫌さが態度や表情に出てしまう……。もし身近にそんな人がいたら、居心地の悪さを感じてしまいますよね。
「周囲に当たり散らす」というほどひどくはなかったとしても、イライラがにじみ出ていたら、その場の雰囲気が悪くなることは確実でしょう。
「法律によって厳格に定められたルール」とまではいかなくとも、私たちが社会生活を営む上では最低限守らなければならないマナーや礼儀というものが存在します。マナーや礼儀にだらしない人は、常識を疑われることにもなりかねません。
それでは豊かな人間性を育むには、どうしたらいいのでしょうか。ここでは、日常生活の中で心がけたい事柄を5つ紹介します。
もし他人との関わりの中でイライラ・ギスギスすることがあったら、一呼吸置いて「相手は何を思ってそういう行動を取ったのかな?」と考えてみましょう。そうすることで、自分自身の心が落ち着き、そこから先の自分の行動が変わってくるかもしれません。また、自分自身が行動を起こす前に「こうすることで、相手はどう思うかな?」と考えてみるのも大切なことでしょう。
日々の小さな言動一つ一つについても「相手の立場に立って考えること」を意識することで、相手も自分も気持ち良く過ごせるようになるのではないでしょうか。
相手が自分のためにしてくれることを「当たり前」と思ってしまうと、ありがたみは見えにくくなるものです。とりわけ家族のように近しい間柄では、気恥ずかしさも手伝って、素直に「ありがとう」を言えないこともあるかもしれません。
しかし、心からの感謝の言葉は、相手に「あなたのしてくれたことを、私はきちんと認識しています」「あなたのことを大切に思っています」というメッセージを伝えてくれます。そのメッセージこそが、相手の心に喜びをもたらし、私たちの人間関係に潤いを与えてくれるのではないでしょうか。
人間について学問的に研究する総合人間学「モラロジー」の理論研究に長年携わった望月幸義氏は、人間にあって動物にない一番の要素は「心の力」であるとして、次のように指摘しています。
「人間と動物の大きな違いの一つは、事物に対する受け止め方の違いにあります。動物は本能的に対象を受け止めるだけであり、自己の精神作用を変えることによって対象の意味(価値)を変えることができないのです。人間にはそれが可能ですが、十分に自覚されているとはいえないようです。
物に善悪はないとすれば、私たちが事物により大きな価値を与えれば与えるほどそのものの価値は大きくなります。こちらの心の受け止め方次第ということであれば、どのような逆境でも感謝して受け止められるようになることが理想といえます」
望月氏の指摘によれば、人がしてくれたことを「当たり前」と思って感謝をせずに見過ごすことは、起きた出来事をただ受け止める「動物的な反応」といえるでしょう。小さな親切、何気ない言葉がけ、ちょっとした気づかいいといった日々の生活の中に隠れている「感謝の種」にどれだけ気づくことができるか。
人間ならでは心の力を働かせ、当たり前に見える日常に、大きな価値を見出せる人とそうでない人。
その違いが人間性の違いであり、その差が、人生の充実度にも関わってくるといえるでしょう。
過ちや失敗は、誰にでもあることです。悪気はなかったとしても、知らず知らずのうちに他人に迷惑をかけてしまうこともあるでしょう。ですから、常に自分の行動を客観的に振り返る習慣を持つ必要があります。
そのための最も簡単な方法は、相手と自分の立場を交換して、相手の立場から自分自身の言動を見つめてみることです。すると、相手の心を傷つけるような言動をしていなかったか、迷惑をかけていなかったかなど、それまで気づかなかったことが見えてくるかもしれません。
人は誰しも不完全な存在です。自分が不完全であるのなら、他人もまた不完全なところを持つ、同じ人間です。「不完全な自分」を認めることは、他人に対する優しさや思いやりにもつながっていくのではないでしょうか。
遅刻をしないこと、締め切りを守ることなどが大切なモラルであることは、言うまでもありません。しかし「遅れない」という以上に「ゆとり」を意識するのも大切なことです。
忙しいときは「目の前の仕事のこと以外、何も考えられない」という場合もあるでしょう。しかし、そうして「心のゆとり」をなくした結果、周囲の人たちへの対応がぞんざいになってしまうことはないでしょうか。表面上は丁寧な対応を心がけているようでも、どこかにイライラ、せかせかとした気持ちがあれば、やはり相手にも伝わります。
私たちの日常を円満なものにするためには、「時間のゆとり」と共に「心のゆとり」が必要なのかもしれません。まずは目の前にいる相手としっかりと向き合い、相手を思いやり、相手を受け入れる「心のゆとり」があってこそ、安心が生まれるのではないでしょうか。
約束事はもちろん、マナーや礼儀を大切にすることは、社会人として最低限のモラルと言えるでしょう。
モラルとは、先人たちが長い時間をかけてつくり上げてきた知識と経験の結晶です。その一つ一つには「他人に迷惑をかけることなく、円満な社会生活を営むために心がけるべきこと」「自分にとっても周囲にとっても安心を生むもの」といった共通点があります。これらは法律に代表されるルールと同じように、社会に秩序と安定をもたらす規範であり、私たち自身が安心・安全な生活を送る上で欠くことのできないものといえるのではないでしょうか。
日々、どのようなことを心がけるか。その1日の積み重ねが、私たちの人生をつくり上げていきます。まずは1つの小さな行いの中にも、1つのささやかな思いの中にも、上記のようなことを心に留めて生活してみませんか。
「思いやり」や「感謝」の気持ちを忘れない人の周囲には、温かい人間関係が広がっていくものです。私たちは豊かな人間性を育んでこそ、みずからの人生を豊かなものにしていくことができるのではないでしょうか。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
ニューモラルブックストアでは、よりよい仕事生活、よりよい生き方をめざす、すべての人に役立つ本や雑誌、イベントを各種とりそろえています。あなたの人生に寄りそう1冊がきっと見つかります。
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