2024年09月18日
仕事の成否がかかったプレゼンや、思いがけず大勢の人前で行うスピーチなど、ビジネスやプライベートでは時に緊張しやすいシーンに遭遇することがあります。
多くの人はプレッシャーを感じながらも、自分の役割をなんとかやりとげて自信につなげることができますが、なかにはちょっとしたことで過剰に緊張して、うまく自分が出せない人も……。
初対面の人と話すだけで緊張してしまうという人も少なくありません。そんな緊張しやすい人の特徴と緊張をやわらげる方法、緊張することのメリットについても解説します。
緊張は人がストレスやプレッシャーに直面した際にあらわれる生理現象です。緊張すると大量の血液が全身に送られるため、心拍数が上昇し、心臓の鼓動がバクバクと感じられます。
顔が赤くなったり、滝のように汗が噴き出したり、手足がガタガタ震える、のどが渇く、声が震えるなどといった身体反応が現れることもあります。
このとき、私たちの体内は交感神経が優位な状態になり、アドレナリンが分泌されます。アドレナリンは生物が天敵から襲われ、生きるか死ぬかのギリギリの状況で、心身を生き延びるための戦闘モードに変えるホルモンです。無意識に肉体が「戦うか、逃げるか」の緊急状況に備えているのです。
緊張しやすい人は神経質で慎重な性格など、その人の持つ性質が関係するケースが大半ですが、体質的な理由も影響すると考えられています。特徴をみていきましょう。
完璧主義な人が緊張しやすいのは失敗を極度に恐れているから。ミスをすることや、そのミスを他人に指摘されることを嫌悪しています。
物事をゼロか百かで考えがちで、常に「完璧でなければならない」と考えており、そこからはずれた自分自身を受け入れがたいと感じています。そのため小さなミスにも神経質になってしまい、いつもプレッシャーと戦っている状態です。
このタイプは向上心が高く、もともと“できる人”も多いので、緊張やプレッシャーをうまくプラスの力に変換して、普段以上の実力を出せることもあります。
必要以上に他人の視線や評価を気にして緊張する人もいます。先ほどの完璧主義者は自分自身と戦っていますが、こちらは自己評価が低く、自分の軸を他人からの評価に預けてしまう主体性に欠けたタイプです。
自分に自信がないので、何かを始める前に「私のせいでうまくいかなかったらどうしよう」などと考えて不安を募らせ、悪いイメージで頭がいっぱいになってしまうことも……。「私にできるはずがない」と自分自身で悪い結果を呼び寄せてしまうのです。
過去に大勢の人の前で失敗した記憶がトラウマになり、同じようなシチュエーションでガチガチに緊張してしまう人もいます。
もともと、舞台で劇を演じたり、人前で発表したりするのが得意なタイプの人はいますが、きっと大半の人が人前に出ること対して「得意でもないし好きでもない」と感じているはず。
大人になれば経験やテクニックで克服できる課題だとわかりますが、子供時代の苦い経験はなかなか忘れられないものです。
似たような状況に立たされると、苦い記憶がフラッシュバックして「また失敗してしまうのではないか」と考えてしまうのです。
人付き合いが苦手でそんな自分にコンプレックスを感じていると、初対面の人と会話する場面で緊張しやすくなります。オープンな雰囲気で参加者が自由に動き回れるパーティーなどは「できるだけ参加したくない」と考える人が多いでしょう。
人の評価が気になるタイプとも重なりますが、相手からどう見られているかばかり気になって、会話の内容に集中したり、その場の雰囲気を楽しんだりする余裕がないのです。
自然体で振る舞うことができず表情が固まり、周囲からは「不愛想な人」と勘違いされてしまうかもしれません。
体質的に交感神経が過敏に反応しやすく、ささいなことでも反応してしまうタイプの人がいます。人前に立つと緊張や興奮から多少は顔が赤くなることがあります。ただの生理現象で周りの人もそれほど気にすることはありません。
しかし、皮膚が薄く血管の色が表面に透けやすい毛細血管拡張症の人などは、普通の人よりも顔色の変化が周囲からわかりやすく「赤い顔を見られるのが恥ずかしい」「緊張しているのが周りにばれたら嫌だ」と考えて、ますます緊張してしまいます。
人前に出ると話ができなくなったり、汗が噴き出したりするなどの症状をともなう社交不安障害という病気もあります。ほんのささいなことで緊張してしまい生活に困難を感じている場合は、精神科や心療内科を受診して適切な治療を受けましょう。
誰に相談したらよいか分からないという方は、以下の厚生労働省の相談窓口を利用してみましょう。
https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/(働く人のメンタルヘルス·ポータルサイト「こころの耳」)
続いては、多くの人が緊張を感じやすい日常的なシーンについて紹介します。
多くの人が見守る中での発表やスピーチは緊張を感じる場面です。普段であれば難なくこなせるようなことを失敗したり、のどまで出かかっているのに言葉が出てこなかったりするのは緊張のためです。
歌手や役者、インタビュー慣れした経営者などの著名人でもなければ、人に注目されながら何かをするというシーンはそこまで多くはありませんが、スピーチなどは訓練や回数をこなすことで徐々に慣れて、自然と人を惹きつける話し方ができるようになります。
試験や面接などの相手から評価されるような場面で、その結果が今後に直結すると考えると不安になるものです。
実際のところ人生は一本道ではありませんから、一度の失敗で人生が変わるというケースもレアですが、それでも大学受験や就職試験、資格試験などの成否は人生の一大事です。
お互いにまだよく知らない相手と話すとき、できるだけ目の前の人に良い印象を与えたいと考えるのは自然なことです。
知性をにじませながらもユーモアを交えた、テンポの良い会話が理想ですが、実際にやろうとするとなかなか難しいもの。
うまくやろうとして空回りすることもあるでしょう。相手の反応や顔色を気にしすぎると、緊張してお互いにリラックスすることができません。
大きな決断をしなければならない状況では緊張感が漂います。職場での立場が上がると、企業としての決定や契約など、全社的に影響を及ぼすような決断をしなければならないことも。
一個人であっても、ひとりの判断ミスで多くの人に迷惑をかけることを考えると、少し緊張しているくらいが慎重に仕事を進められてよいのかもしれません。
先ほどは、緊張しやすい人の特徴のマイナス面を取り上げましたが、裏返せばそれは長所や強みにもなり得ます。
完璧主義で他人からの評価が気になるのは向上心が高いから。過去の失敗を覚えていれば次の機会に慎重に取り組むことができますし、緊張しやすい自覚があるからこそ、人の気持ちや心の痛みが理解できることもあるでしょう。正しく反省して次の機会へと進める人は“成長できる人”でもあります。
ほどよい緊張感やプレッシャーは集中力を増し、実力以上のパフォーマンスを引き出すことで知られています。
ある実験では自律神経のバランスと脳波を計測することで、ただ休んだ状態でいるよりも、緊張した後に休んだほうが“しっかりと休める”というデータが出ています。一旦、緊張を経験したほうが、より深くリラックスできるというわけです。
ところで、お風呂の中やベッドの上でいいアイデアをひらめいた経験はありませんか?机にかじりついているときには思い浮かばなかったような新しい発想は、なぜかリラックスしているときに生まれることが多いもの。
これは緊張と弛緩(しかん)の効果といわれ、日中にインプットされた情報が、力が抜けゆるんでいる間に無意識下で整理されるためです。このようなプラスの効果を知っておけば、不安が高まるシーンでも緊張を味方につけることができます。
とはいえ、緊張をやわらげる方法を知っておいて損はありません。緊張をほぐすためには一体どのようなことを意識すればいいのでしょうか?ここでは人前で発表を行う場面を想定した、4つのアイデアを紹介します。
本番が近づいて焦る自分、壇上に上がってマイクを持つ手が震えている自分……。人前で緊張しやすい人は、必要以上に“自分のこと”にフォーカスしている可能性があります。
ある男性は仕事上、たびたび人前での講演会をする機会がありますが、どのような会場でも「まったく緊張しない」そうです。その理由について「やることが多すぎて、緊張している暇がない」というのです。
その人は講演会の間、客席にいる人々のことを観察したり、アイコンタクトをとったりして、講演の内容が聴衆にきちんと伝わっているかを確認しているそうです。このように「緊張している自分」ではなく、伝えたい内容や聞き手の反応に意識を向けると気持ちが落ち着きます。
緊張すると体がこわばり、呼吸が浅くなります。その際に効果的なのが深呼吸(腹式呼吸)です。
ゆっくりとした呼吸を繰り返すことで、心拍数が落ち着いて体がゆるみます。お守り代わりに好みのアロマオイルを垂らしたハンカチを持っておいて、深呼吸しながら香りをかぐのもいいですね。
ストレッチやツボ押しも効果的です。首や肩をグルグルまわすだけでも、こわばった筋肉がほぐされますし、手のツボを刺激することで緊張がやわらぐ場合もあります。
緊張してしまいそうなイベントの予定が先にわかっている場合は、事前準備をすることで当日に備えられます。
例えば、重要なプレゼンの前に行う会場の下見などは、やるとやらないとでは大違いです。会場の大きさや客席との距離、舞台や照明の雰囲気など、現地の状況を自分の目で確認すると安心感が得られます。
日ごろから人前で話すことに慣れている人は別として、当日の流れについてある程度は把握しておいたほういいでしょう。
話す内容や資料などの準備をしっかりと整えておけば「ここまでやったのだから、これで失敗したとしても仕方がない」という気持ちにもなれますし、万が一にミスが生じたとしてもすぐに軌道修正できます。
これでいいのかな、もっといい方法があるのではないだろうか、そんなふうに緊張が不安にまで変わってしまったときは、自分の中の不安をいったん取り出して「現実的な不安」と「お化けの不安」に分けて客観的に見つめることをおすすめします。臨床心理士の玉井仁さんは著書で次のように述べています。
もしお化けの不安だと気付いたらその対処法は「放っておくこと」。現実的な不安にだけ注目し、簡単なことでいいので、現実的な対応策を思いつく限り具体的に書き出すことを玉井さんはおすすめしています。
緊張しやすい人はそんな自分をコンプレックスに感じ、人前でのスピーチなどに苦手意識を持つ人も少なくありませんが、緊張はその存在を認識し、うまく活用すれば決して悪いものではないことをわかっていただけたでしょうか?
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。ニューモラルブックストアでは、よりよい仕事生活、よりよい生き方をめざす、すべての人に役立つ本や雑誌、イベントを各種とりそろえています。あなたの人生に寄りそう1冊がきっと見つかります。
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