公開日:2026年06月10日
さっきまでいつも通り夕飯の準備をしていたのに、帰ってきた家族の何気ない一言で無性にイライラして止まらなくなる。自分でもコントロールできないほどの気分の変化に戸惑ったことはありませんか。穏やかでいたいのに気分が波立ってしまう背景には、いったいどのような原因が隠れているのでしょうか。
気分の波が激しくなる背景には何かしらの理由があります。思い当たることがないか確認してみましょう。
私たちは常に誰かと関わりながら生きています。特に他人の感情やその場の空気を読み取る力に長けている人は、職場で同僚がため息をついただけで「私のせいかもしれない」と不安になったり、ママ友の何気ない言葉の裏を深読みして落ち込んでしまったりします。
相手を思いやることができるのは素晴らしい長所ですが、他者の感情をまるで自分のもののように感じてしまい振り回されてしまうのです。「他人の感情は他人のもの」と線を引くのが苦手なタイプといえるでしょう。
心と体が相互に影響し合っていることは、脳科学・心理学・医学の研究でも分かってきていますから、気分の浮き沈みは体からのSOSともいえます。
子供の夜泣き、終わらない家事、仕事の持ち帰り、ついスマホを見て夜更かししてしまうなど慢性的な睡眠不足を感じている人は少なくありません。体がしっかり休めていないと、いつもなら笑って受け流せるようなことに敏感に反応してしまうことも。睡眠不足や不規則な生活は、感情を制御する脳の働きを著しく鈍らせます。
仕事でも家庭でも「こうあるべき」という高い理想を持っている真面目な人ほど気分の波に苦しめられます。仕事で手を抜くなんて絶対に許せない、親なんだから手抜き料理なんてありえないと、自分で厳しく設定したレベルに届かなかった場合、その現状を受け入れられません。理想の自分になれない焦りやもどかしさが感情の波となって現れてしまいます。
ちょっとした感情の上下は誰にでもありますが、その上下を穏やかにしたり、うまく乗りこなしたりできるようになることには大きなメリットがあります。
気分にムラがある人に対して周囲は「今、話しかけても大丈夫かな。やっぱり後にしようかな」と、顔色をうかがっています。まったく同じ話をしてるのに、タイミングひとつで結果がイエスになったりノーになったり。気分で答えがコロコロ変わってしまっては、提案する側としてはたまったものではありませんよね。そうした相手に対しては、当たり障りのない話題や必要最低限の用件だけを伝えて終わってしまいますから、人間関係は表面的なものにとどまります。
反対に、感情が安定していていつもフラットに接してくれる人には、安心して相談したり話しかけたりすることができます。「ちゃんと話を聞いてくれる」「気分によって答えが変わらない」という安心感は、信頼関係の土台になります。
心にも時間にも余裕がない時に限って、子供が飲み物をこぼしたり職場で急な予定変更があったりすると「どうして今⁉」と感情的に反応してしまいます。冷静な判断ができないので、焦って投げやりな行動をとってしまったり、やらなくていいことから手をつけて時間が足りなくなったりすることも。
逆に心が凪のように安定していると、同じトラブルが起きても一呼吸置いて冷静にやるべきことの優先順位を立てられるようになります。一時の感情に振り回されて余計なエネルギーを消耗しない分、自分が本当にやるべきことや大切にしたいことに持てる力を注げるようになるはずです。

揺れ動く感情を完全に凪にすることはできませんが、波にのまれないための心の持ち方を身につけることは可能です。ポイントをご紹介します。
「いい加減にしなさい」
「そんなことで泣かないの!」
「そんなのたいしたことでしょ」
例えば、子供が怒っている時、泣いている時、不安そうな時、そんなふうに声をかけていませんか。私たちは怒りや悲しみ、不安といった感情に対して「持ってはいけない悪いもの」として、無理にとじこめようとします。
しかし、湧き上がる感情に善悪をつけず、「私は今、腹が立っているんだな」「私は今、不安を感じているんだな」と、まずはありのままを受け入れることが大切です。無理に抑え込もうとするほど反動で感情の波は大きくなってしまいます。
臨床心理士の玉井仁さんは、人が抱く感情の役割について次のように解説しています。
例えば、怒りは自分を大切に守るアラーム、不安は未来への備えを促すアラーム、恐怖は危険への対処を促すアラームです。一見あなたを振り回し、苦しめるかのように見える感情は、あなたを守るために存在しているとも言えるのです。『ネガティブな感情は、実はあなたの味方だった!』というわけです。しかし、大切な使命と力をもって登場してくれているこれらの感情も、対処の仕方によっては、それこそ心を乗っ取り、人生を破壊する方向に向いてしまいます。つまり、感情が生じたときに、どのように取り扱うかが非常に大事になってきます。
(玉井仁『7つの感情』モラロジー道徳教育財団)
怒りや悲しみが込み上げてきた時、「これは自分を守るためのアラームなのだ」と分かっていれば適切な対処ができるというわけです。
誰かの目線や世間の「ふつう」をいったん横に置いて、自分が本当に大切にしたいことはなんなのか考えてみましょう。
「手の込んだ料理を作れなくても、家族で笑ってご飯が食べられればそれでいい」といった自分なりの基準で構いません。「私はこれでいい」という軸があると、SNSで見かける誰かの華やかな日常やふと感じる焦りに心がザワザワしにくくなります。
気分が落ち込んでいる時やイライラしている時は、「どうして私が」と意識が自分の内側や足りないものに向きがちです。
そんな時こそ意識を少しだけ外へ向けてみましょう。職場がいつもきれいで気持ちよく仕事ができるのは、誰かが朝早くに整えてくれているからかもしれません。トイレットペーパーが新しいものに替えられている。冷蔵庫を開けるといつも冷たい麦茶がある。お風呂のシャンプーが補充されている。 私たちが当たり前だと思っていることは、誰かの小さな「おかげ」で成り立っていることも少なくありません。「おかげさま」を見つけるのが上手になると、トゲトゲしていた心が少し穏やかになるはずです。
心の持ち方だけでなく、普段の行動を少し工夫するだけで気分はコントロールしやすくなります。ここでは簡単に取り組める方法を紹介します。
自分はいつもどのような時に落ち込んだりイライラしたりするか、何がスイッチになって気分が上下するのか、手帳やスマートフォンに書き出して客観視してみましょう。「昼食前はイライラする」「正論を頭ごなしに言われるとやる気がなくなる」など具体的な状況とその時の感情を記録します。
記録を続けると、「お腹がすくと怒りっぽくなるから、食事前に大事な打ち合わせをするのは避けよう」など事前の対処もしやすくなります。
心と体は相互に影響し合っていることは分かっていますから、心を穏やかに保つために身体を整えることが欠かせません。毎朝決まった時間に起き、朝日を浴び、しっかりと食事をとることで体内時計がリセットされ自律神経は安定します。
頭の中がごちゃごちゃで気持ちが落ち着かない時は無理をせず早めに布団に入ってしまいましょう。休息をとることも心を守るための一つの方法です。
呼吸と感情は深くつながっています。
人はストレスや緊張を感じると、無意識に呼吸が浅く速くなります。すると脳は「身の回りに危険が起きているかもしれない」と判断し、体を警戒モードに切り替えます。これは「戦うか逃げるか(ファイト・オア・フライト反応)」と呼ばれる、危険な状況で生存を高めるために備わった本能的な反応です。その結果、イライラしたり不安が強くなったり、人の言葉を敏感に受け取りやすくなることも。
逆にゆっくり深く呼吸すると、脳や自律神経に「今は大丈夫」という信号が伝わり、心が落ち着いてきます。脳の興奮を鎮めるには、「息を吸っている、息を吐いている」という今・ここの身体の感覚に意識を向けるだけでも効果があります。

どうしても気分の激しい変動が治まらない場合は、個人の努力や心がけの問題ではなく病気が潜んでいる可能性も考えられます。どこに相談したらよいか分からないという方は、以下の厚生労働省の相談窓口を利用してみましょう。働く人のメンタルヘルス·ポータルサイト「こころの耳」
女性の場合、毎月の周期的なホルモンバランスの変化が心に大きな波を作ることがあります。特に月経前のイライラや気分の落ち込み(PMS)や更年期による気分のゆらぎは、決して甘えや気の持ちようではありません。医療機関を受診し適切な治療を受ければ症状を和らげることもできるので、検討してみてください。
気分の高揚(ハイな状態)と極端な落ち込みを繰り返す場合や、特定の環境で涙が止まらなくなるような場合、双極性障害や適応障害のように専門的な治療が必要かもしれません。
日常生活や仕事に支障が出るほど困っているときは、無理をしてひとりで抱え込まず精神科や心療内科に相談しましょう。専門家から適切なアドバイスや治療を得ることが早期回復への鍵となります。
長期間にわたって慢性的なストレスにさらされ続けると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ自律神経が大きく乱れてしまいます。自律神経が乱れると、感情のブレーキが効きにくくなり、ちょっとしたことで涙が出たり怒りが抑えられなくなったりします。動悸、めまい、頭痛、不眠など身体的な不調は心身からのSOSです。休息をとり、体調面からのアプローチを優先してケアを行ってください。
感情が揺れ動くのは毎日を懸命に生きている証拠でもあります。誰かを大切に思い、自分の役割を果たそうと頑張っているからこそ、うまくいけば嬉しくなり、失敗すれば落ち込みます。どうかそんな自分を責めず、まずは「よくやっているね」と優しく労ってあげてください。

\ 監修者 /
富田裕之
公益財団法人モラロジー道徳教育財団コンテンツ開発局長として「心豊かな生き方・働き方」をテーマとしたコンテンツ制作に従事。「正しいのはわかっているけれど、現実では難しい」そんな日常の葛藤に寄り添い、毎日を少しずつアップデートする、温かくも本質的なヒントを届けている。中小企業診断士。キャリアコンサルタント。

\ 執筆者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ
ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
ニューモラルブックストアでは、よりよい仕事生活、よりよい生き方をめざす、すべての人に役立つ本や雑誌、イベントを各種とりそろえています。あなたの人生に寄りそう1冊がきっと見つかります。


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