公開日:2026年04月27日
最近、ニュースで「観測史上最大」という言葉をよく耳にしませんか?ゲリラ豪雨や季節外れの大型台風など、想像を超えるような異常気象が今やすっかり日常の一部になりつつあります。
自然災害が身近になるのと同時に、「防災」という言葉と並んで「減災(げんさい)」というキーワードもよく聞くようになりました。この2つの違いを正しく知ることは、企業のリスクマネジメントと同じくらい、現代を生き抜くためにぜひ身につけておきたい知識です。
この記事では、「防災」と「減災」の根本的な違いから、家庭や企業でぜひ取り組んでおきたい対策を解説します。拓殖大学防災教育研究センター長・濱口和久さんの著書『考える防災24』の知見も交えながら、命とビジネスの明日を守るヒントを一緒に探していきましょう。
リスク管理は、言葉の意味をきちんと知ることから始まります。まずは「防災」と「減災」、似ているようで実は違うこの2つの違いを整理してみましょう。
「防災」とは、文字通り「災害による被害をできるだけゼロに近づける」ための事前の備えのことです。国や自治体が立派な防潮堤を作ったり、企業がお金をかけて建物を頑丈にしたりするのがこれにあたります。「自然の脅威を完全にシャットアウトして、絶対に被害を出さない」という、ハード面を重視した守りのアプローチです。ビジネスでいえば、セキュリティシステムを何重にもしてサイバー攻撃を100%防ごうとする姿勢に似ています。
一方、「減災」は「どんなに頑張っても、自然の猛威を完全に抑え込むことは難しく、ある程度の被害は出てしまうもの」と現実を受け止めることからスタートします。つまり、被害が出ることを前提とした上で、その規模を最小限に抑え、事後の回復を早めるための取り組みです。
今は環境問題などの影響もあり、これまでの想定を超える災害リスクが高まっています。どんなに頑丈な堤防でも決壊するリスクがある以上、「被害ゼロ」を目指す防災だけでなく、ダメージを減らして早く復旧する「減災」の考え方が、社会全体でとても大切になっているのです。
では、なぜ今「減災」がこれほど注目されているのでしょうか?その背景には、環境の変化とリスクに対する考え方の変化があります。
近年の異常気象や大きな災害を見るにつけ、「完全な防災」の難しさが誰の目にも明らかになってきました。「ここは安全なはず」と信じられていた場所が甚大な被害を受けるニュースも少なくありません。人間の作った形あるものがいとも簡単に突破されてしまう現実を前に、私たちは「自然を完全にコントロールできる」という考えを改めなければなりません。
さらに、気候変動が災害の規模を大きくしているともいわれており、減災の重要性はかつてないほど高まっています。過去のデータに基づいた対策だけでは、日々変わる環境には立ち向かえません。
だからこそ、被害を完全に防ぐという発想から、いかに被害を減らし、しなやかに立ち直るかという現実的な発想へと社会全体がシフトしているのです。

ここからは、毎日の生活の中で無理なくできる、具体的な減災対策を見ていきましょう。
災害直後は電気や水道などのライフラインが止まる可能性が高く、急いで避難所へ向かうことも考えられます。命をつなぐための水や食料、モバイルバッテリー、常備薬などを最低限まとめておきましょう。用意した持ち出し袋は、押し入れの奥にしまい込むのではなく、玄関や寝室など「いざという時にすぐ持ち出せる場所」に置いておくのがポイントです。
自然災害の発生後、自宅への被害が少ない場合は在宅避難という選択肢もあります。ただし、近くのお店からはあっという間に水や食品などが消えてしまうため、普段からローリングストックで備蓄するのがおすすめです。これは、普段から食べる保存食や飲料水を少し多めに買っておき、使った分だけ新しく買い足していく方法です。これなら、せっかく買った高価な防災食の賞味期限をきらしてしまう失敗も防げます。
いざという時「どこへ逃げるか」で迷っていては命に関わります。お住まいの地域のハザードマップを確認して、安全な避難ルートをいくつか考えておきましょう。また、晴れた日の昼間だけでなく、雨の日の夜間など条件を変えてシミュレーションしておくのもおすすめです。冠水した道路は昼間とは全く違う危険な顔を見せるからです。
大規模な災害発生後は、電話がとてもつながりにくくなります。家族がバラバラの場所にいる時に連絡がとれないと、パニックになってしまうかもしれません。つながらない電話をかけ続けて、スマートフォンの貴重なバッテリーを消費することがないように、平時から災害用伝言ダイヤル(171)の使い方を練習したり、SNSでの連絡の取り方を決めておきましょう。「万が一連絡がとれなかったら、〇〇小学校の裏門に集まろう」といったルールを家族で共有しておくだけでも、心の負担はずいぶん軽くなります。
大地震でケガをする原因として多いのが、家具の転倒や家電の落下です。L字金具や突っ張り棒、耐震マットなどでしっかり対策しましょう。特に、無防備になりがちな寝室や子供部屋の安全対策は最優先で行いたいですね。そもそも背の高い家具を置かないというのも賢い選択です。
停電や断水への備えも必須です。懐中電灯や予備の電池、ポータブル電源、そして見落としがちなのが非常用トイレです。水洗トイレが使えなくなった時の衛生管理は、生活と健康の維持、そして人間としての尊厳を守るために切実な問題になります。
防災グッズを揃えただけで安心してしまうのはNGです。実際に非常用持ち出し袋を背負ってみたり、家族で避難経路を歩いてみたりしましょう。バッグが重くて持ち上がらなかった、ブロック塀が崩れるかもしれないから避難の道順を変えたほうがよさそうなど、一度やっておけば気づくこともあります。いざという時のパニックも防げるはずです。
危機管理の専門家である濱口和久さんは著書『考える防災24』の中でこのように述べています。
災害時に正しく行動できる能力を身に付けるには、「災育」の実践が重要になってきます。災育とは「防災教育を通じて生きる力(人間力)を身に付けること」です。(中略)「知る力・覚える力・動く力・考える力」を養うことで、自助の意識を醸成することにもつながります。
(濱口和久『考える防災24――生き抜くための災育のすすめ』ニューモラル出版)
知識を得て、実際に動き、さらによくするために考える。このプロセスこそが減災につながるのです。
必要な備えは家族構成によって違います。液体ミルクやおむつ、高齢の方の常備薬や介護用品、ペット用品など、一般的な救援物資では後回しにされがちな「我が家にとって必要なもの」をしっかり洗い出しておきましょう。
いろいろな対策をご紹介しましたが、すべてを完璧にこなすのは大変です。大切なのは、自分にとって優先順位が高いものを見極めることです。
まずは自分を取り巻くリスクを客観的に知ることです。「今まで大丈夫だったから」という思い込みは捨てて、ハザードマップなどで事実を確認しましょう。例えば自宅周辺に少しでも浸水の恐れがあるのなら、「家の前の道はこれくらい浸水する可能性がある」と家族で客観的な情報を共有することが、減災の第一歩です。知ることが次の「行動」につながるのです。
不安になって高価な防災セットを買い込んだり、逆に「避難所に行けばどうにかなる」と何も備えなかったりするのは、どちらも適切なリスク管理とはいえません。100円ショップのアイテムで代用できるものは代用し、家具の固定など命に関わる部分にはしっかり投資する。無理のない範囲で対策をしましょう。
減災は普段の生活に無理なく組み込んで習慣化することがポイントです。例えば「車のガソリンが半分になったら給油する」と決めておくだけでも立派な減災になります。災害時に車中で避難する場合、ガソリンが十分にあれば、エアコンを使って暑さ寒さをしのげますし、カーオーディオで情報収集やスマートフォンの充電など、車を巨大なモバイルバッテリー兼シェルターとしてフル活用できます。日常の延長線上で備えることを意識してみてくださいね。

ここまでは家庭のお話でしたが、企業に勤めている人の多くが1日の大半を過ごす「職場」についても考えてみましょう。最近は、災害時にも事業を維持するためのBCP(事業継続計画)やESG経営の観点から、企業の減災への取り組みがとても重要視されています。
前出の濱口さんは次のように指摘しています。
災害などが起きて業務や操業レベルが大きく損傷、ダウンした際、初動対応を行い、業務などをいち早く元のレベルに復旧させる一連の流れを示した事業継続計画(BCP)の策定も必要です。(中略)
(前掲書)
社会からの期待に応えて、災害時にいち早く業務を復旧させることは、会社に課せられた社会的責務です。業務を復旧するだけで完了ではありません。業務を復旧して、余力を社会的な復旧支援に振り向けることが重要となります。
分厚いマニュアルを作って棚にしまっておくのではなく、有事に誰もが迷わず動ける実効性が何よりも重要です。
どれほど緻密なBCPがあっても、それを実行するのは「人」です。いざという時に慌てず動けるかどうかで、企業の減災力は大きく変わります。濱口さんは「マニュアルは往々にして形骸化しやすい」と指摘し、日頃の訓練の重要性を説いています。
また、濱口さんはオフィスでできる身近な減災対策についても紹介しています。
どこの会社でも複合機(コピー機)を使っていることでしょう。(中略)複合機の重量は約一〇〇キロあるので、地震が起きても動くことはないと思っている人が多いかもしれませんが、その認識は間違いです。(中略)
(前掲書)
地震が起きて複合機がすごい勢いで人に激突するような事態になれば、机と複合機に体が挟まれて内臓破裂、頭にぶつかれば脳に障害を及ぼす事態になった恐れもあります。複合機は地震時には「ギロチン」とも呼ばれます。会社内の身近な対策として、複合機の固定も忘れずにやっておきましょう。
こうした細やかな人材面の備えや環境の点検が、組織全体のレジリエンスを高めることにつながります。
CO₂削減や省エネの推進は、一見すると防災とは無関係に思えるかもしれません。しかし、これらは地球温暖化に歯止めをかけ、将来の異常気象を抑えることにつながる立派な減災対策です。環境を大切にする強い組織作りは、取引先や顧客の信頼を集め、結果的に企業の価値を高めることにも大きく貢献します。
日本で暮らす以上、自然災害のリスクは避けられません。「完全に防ぐ」ことは難しくても、正しい知識とちょっとした工夫で被害を最小限に抑えることは十分に可能です。
まずは知って、行動してみること。今日、帰宅ルートの危険な場所を確認してみる。週末に家族でローリングストックの食材を食べてみる。明日出社したら、オフィスのコピー機が固定されているか見てみる。そんな毎日のちょっとした減災の積み重ねこそが、大切な家族とビジネスを守り抜く強力な盾になるはずです。

\ 監修者 /
富田裕之
公益財団法人モラロジー道徳教育財団コンテンツ開発局長として「心豊かな生き方・働き方」をテーマとしたコンテンツ制作に従事。「正しいのはわかっているけれど、現実では難しい」そんな日常の葛藤に寄り添い、毎日を少しずつアップデートする、温かくも本質的なヒントを届けている。

\ 執筆者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ
ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
ニューモラルブックストアでは、よりよい仕事生活、よりよい生き方をめざす、すべての人に役立つ本や雑誌、イベントを各種とりそろえています。あなたの人生に寄りそう1冊がきっと見つかります。


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