公開日:2026年06月29日
「また三日坊主で終わってしまった」
「今年こそはと決意したのに、気づけは何もしないまま半年が過ぎた」
「こうありたい」という理想の自分を心の中に持っているにも関わらず、現実は思い通りにいかないことが少なくありません。
才能がないから続かないのだろうか。意志が弱いからダメなのだろうか。そうやって自分を責めてしまう前に、少し立ち止まって考えてみたいキーワードがあります。それが「やり抜く力(GRIT)」です。このブログでは、やり抜く力を育み、自分なりのペースで理想の姿に近づくためのヒントを一緒に探していきましょう。
やり抜く力(GRIT:グリット)とは、長期的な目標に向かって、情熱と粘り強さをもって取り組み続ける力のことです。
これは、アメリカの心理学者であるアンジェラ・ダックワース博士が提唱した概念であり、人生における成功や目標達成において、生まれ持った才能やIQ(知能指数)よりもはるかに重要な役割を果たすとして、世界中で注目を集めています。
「グリット」という言葉自体は、もともと英語で「砂利」を意味するものですが、今では「根性」「気概」「やる気」「ガッツ」「勇気」「不屈の精神」を意味する言葉として使われるようになりました。
やり抜くとはいっても、それは「世界的な偉業を成し遂げる」ような特別なことだけを指すのではありません。少しずつ学び続けることや、腐らずに改善案を練り直すこと。あるいは、投げやりにならずに対話を続けようとすること。そうした地道で泥臭い日常の歩みも、やり抜く力だといえます。
つまずいた時、うまくできなかった時「頭がよくないから」と言い訳をしたくなることがありませんか。
しかし、先ほどのダックワース博士の研究によれば、過酷な軍事訓練を乗り越えられた者、教育現場で成果を出し続けた教師、厳しい営業職で生き残ったセールスパーソンなど、さまざまな分野において成果を出した人たちに共通していたのは、才能やIQの高さではなく「やり抜く力」でした。
どんなに高いIQを持っていても、困難にぶつかった時にすぐ諦めてしまえば、その知識は役に立ちません。一方で、最初から突出した才能がなくても、やり抜く力が高い人は何度も立ち上がり、長期的に見れば成果を出しやすいことが分かっています。
「努力は才能に勝る」という誰もが一度は耳にしたことのある言葉に、科学的な裏付けを与えたこのアプローチは、「自分には才能なんてない」と立ちすくんでいる人にとって、大きな希望を与えてくれるかもしれません。
なぜ今、これほどまでに「やり抜く力」が注目されているのでしょうか。その背景には、数年先の自分の働き方や暮らしでさえ、どうなっているか予測しづらい今の時代の空気があります。かつては「これさえやっておけば一生安泰」というたった一つの正解が存在していました。しかし、唯一無二の正解がない今の時代では、変化に適応しながら学び続ける力がよりいっそう重要になっているのです。
また、教育やビジネスの現場では、テストの点数や知識量といった数字で測れる力だけではなく、忍耐力、協調性、自制心といった「非認知能力」の重要性が広く認識されるようになりました。どんなに知識があっても、それを活かすための心の土台がなければ、何か壁にぶつかった時、すぐに心が折れてしまいます。
家庭においても、「テストの点数だけでは将来の幸せは約束されない」ということに多くの人が気づき始めています。「正解のない時代で、子供が自分らしく生き抜くにはどうすればいいか」という関心が高まる中で、どのような壁にぶつかっても折れずに挑戦し続ける「やり抜く力」こそが、これからの時代を生きるための必須スキルとして注目されているのです。
「やり抜く力」と言っても、それは単なる気合いや根性のことだけではありません。GRITは大きく4つの要素から構成されていると考えられています。ここではそれぞれの要素について詳しく見ていきましょう。
1つ目の要素は「ガッツ(度胸・根性)」です。これは、困難や壁に直面しても逃げずに立ち向かう強い心のことを指します。
新しいことにチャレンジする時や、やり慣れた方法がガラッと変わる時、私たちはしばしば「やりたくない」「面倒くさい」「失敗するのが怖い」という感情を抱きます。
取り組んだことのない課題や難易度が高いと感じる目標に対しても、「まずはやってみよう」と一歩を踏み出す力、それがガッツです。やり抜く力の出発点となるこの要素は、結果がどうなるか分からなくても、自分の可能性を信じて行動を起こす原動力となります。
2つ目の要素は「レジリエンス(回復力)」です。失敗や挫折をしても、あきらめずにもう一度立ち向かおうと立ち直る力を意味します。
ダイエットを決意したのに甘いものを前にして誘惑に負けた、練りに練った企画が通らなかった、子供に感情的に怒鳴ってしまった。私たちはそんな日々の小さな失敗や挫折を繰り返しています。
しかし、レジリエンスを持つ人は、そこで「自分はダメだ」と完全に折れてしまうのではなく、「次はどうすればいいだろうか」と気持ちを立て直すことができます。成功するまでに何度も転びながらも、再び歩き出すための「継続」を支える核となるのが、この回復力です。
3つ目の要素は「イニシアティブ(自発性)」です。誰かの指示を待つのではなく、自ら目標を設定し能動的に取り組もうとする力です。
「言われたからやる」「文句を言われないためにやる」といった外からの動機づけではなく、「自分自身がこうしたいからやる」という内側からわき出る動機(内発的動機)に基づいて行動できるかどうかがポイントになります。自発的に動ける人ほど、予定通りにいかない困難な場面でも、「誰かのせい」にして立ち止まることなく、主体的に打開策を考え続けることができます。
4つ目の要素は「テナシティ(執念)」です。一度決めた目標を見失わず、強い目的意識をもってやり続ける力のことです。
疲れているから今日は休みたい、スマホでSNSを見たいといったさまざまな誘惑や障害があっても、最終的な目標へのこだわりを手放さない粘り強さがこの要素の核となります。小さな失敗や一時的な感情の揺らぎでは決して揺らがない「折れない意志」が、最後の最後まで走り抜くための力となります。
では、実際にやり抜く力が高い人には、どのような特徴があるのでしょうか。どのような心の習慣や視点を持っているのか見ていきましょう。
やり抜く力が高い人は、マイブームのような短期的な「好き」ではなく、長期にわたって同じテーマや目標に関心を持ち続けられるという特徴があります。
あれもこれもと目移りして手を出すのではなく、一つのことを深く追求し続けるスタイルを取ることが多いです。「これだ」と決めたことに対しては、晴れの日も雨の日も淡々と続ける。この一貫した情熱が、やり抜くための原動力となっています。
やり抜く力が高い人は、挫折や失敗を「終わり」や「自分の限界」として捉えません。むしろ「成功へのプロセスの一部」として前向きに受け止めます。
仕事でミスをした時でも、「なぜ失敗したのだろう」「次に同じ状況が起きたらどう防ごうか」と冷静に分析し、次の行動に活かすことを忘れません。もちろん、失敗して悔しい気持ちがないわけでも、落ち込まないわけでもありません。しかし、その感情に飲み込まれすぎず、諦めずに一歩一歩前へ進み続けることができるのです。
やり抜く力が高い人は、周囲の流行やその日の気分に流されず、毎日決めたことをやり続ける継続力を備えています。
例えば「TOEICで850点を取る」というような大きな目標に対して、「毎朝通勤電車の中では英語の学習をする」といった小さなステップに分けて、努力が続く仕組みづくりを忘れません。人間ですから、どうしてもやる気が出ない日もあります。そんな日でも、「耳から聞くだけ」「テキストを開くだけ」といった「やる気がない日でも続けるための仕組み」を自分なりに工夫している人も多くいます。
目先の結果に一喜一憂せず、数年後、あるいは数十年後の目標に向けて行動できるのも特徴です。すぐに目に見える成果が出なくても、「今はまだ土に種をまき、水をやっている時期だ」と捉え、焦らずに続けることができます。
ダイエットでも語学学習でも、結果が出ない停滞期は訪れます。しかし、そこで投げ出さず「この小さな努力が未来の自分を作っているんだ」と自分を鼓舞し、モチベーションを維持します。
やり抜く力が高い人は、最終的な結果や評価だけに固執するのではなく、できなかったことができるようになっていく「過程」そのものにも喜びを感じています。「昨日の自分より、今日の自分がほんの少しでも成長している」と実感することが喜びあり、継続の大きな原動力になっています。

一方で、やり抜く力が低い人にも共通する行動パターンや心理状態があります。
やり抜く力が低い人は、「今度こそは」と新しい趣味や勉強を始めても、壁にぶつかると「自分には合っていなかった」と理由をつけて、別の新しいことを始めてしまう。好奇心が旺盛で新しいことへの興味は尽きないものの、少し難しくなったり、期待したような成果がすぐに出なかったりすると、急に関心が薄れてしまう傾向があります。
結果として広く浅く手を出してはみるものの、どれも深まらないまま終わってしまうことが多いのです。
やり抜く力が低い人は、一度でも物事がうまくいかないと「自分には向いていない」「才能がないのだ」と極端な結論を急いでしまいがちです。失敗を乗り越え、そこから教訓を学んで次の行動に活かす前に、早々に撤退の判断をしてしまいます。結果が出ない苦しい時期にグッと踏ん張る経験が少ないため、困難に立ち向かうための「継続の筋肉」が育ちにくいという悪循環に陥ってしまうことがあります。
外からの刺激(外発的動機)がないと動けないのも特徴です。「上司に怒られないためにやる」「褒められるからやる」「100点をととればお小遣いが上がるからやる」など、誰かから指示されたりご褒美が設定されたりしていなければ自分から取り組むことができず、指示待ちの状態にながちです。自分の内側からの「やりたい」という動機が弱いため、環境が変わったり評価されなくなったりすると、一気にモチベーションが落ちてしまいます。
「なんとなく英語が話せたらいいな」「もうちょっと痩せたいな」といった曖昧な目標では、行き詰ったときや面倒くささが目の前に現れたときに、踏ん張る理由が見つかりません。その目標を達成することにどのような意味があるのか、自分の言葉でしっかりと説明できないと、継続の動機はどうしても弱くなります。具体性のない目標は、前へ進んでいる実感や途中の達成感を味わいにくいため、いつの間にかフェードアウトしがちです。
真面目な人に多いのがこのタイプです。「完璧にできなければ意味がない」という0か100かの思考が、皮肉にも継続の最大の妨げになってしまいます。
毎日1時間勉強すると決めたのに、ある日は残業で30分しかできなかったとします。すると「計画通りにできなかったから、もうダメだ」と投げ出してしまうことも。やり抜く力が低い人は、小さなミスや理想との差ばかりが気になり、前に進む足が止まってしまうのです。完璧を求めるあまり、失敗を恐れて「始めること自体を先送りにする」ケースも少なくありません。
やり抜く力が高いことで、どのような良い変化やメリットがもたらされるのでしょうか。
途中で投げ出さずに続けられれば、思い描いた姿にたどり着く確率はグッと上がります。最初は、要領のいい誰かと比べて「自分はその場で足踏みしているみたい」と焦ることもあるかもしれません。しかし、コツコツと小さな努力を積み重ねていれば、半年、1年と経つうちに、確かな変化となって表れます。「私にもやり遂げられた」という達成感は、誰にも奪えない自信になるはずです。
自信の本来の意味は文字通り「自分を信じること」です。誰かに褒められるようなすごい結果を出さなくても、「今日は疲れたからもう寝てしまおうかな」という気持ちに負けず、ほんの少しでも頑張った。その「自分で決めたことを、自分が裏切らなかった」という事実の積み重ねが、「自分は頑張れている」という自信に変わっていきます。
日々の仕事や学びの場において、数字やすぐに出る成果ばかりが評価されるわけではありません。むしろ、トラブルが起きてみんなが後ろ向きになりそうな時でも、「なんとか道を切り拓こう」と地道に動き続けられる人こそが、最終的に深い信頼を集めます。「この人は、しんどい時でも途中で放り出さない」。そんな周囲からの信頼は、難しい局面や先の見えない場面などを乗り越えるための味方になります。逃げない姿勢を貫けること自体が大きな武器になるのです。
物事をやり抜こうとする姿勢は、「頑固になること」ではなく「柔軟になること」につながります。
例えば急なトラブルに見舞われて計画が崩れたとき。そこで「予定通りいかないから無理!」と投げ出すのではなく、「なんとかしていい形にしたい」と思っていると、「じゃあ、このやり方ならどうだろう?」「今日は無理でも明日の朝ならできるかも」と、次の一手を探すアイデアが湧いてくるものです。想定外の変化が起きても、「思ってもいない波が来たなら、こう乗ってみよう」と、しなやかに思考と行動を変えられるようになります。
親であれば誰しも「子供には将来、幸せになってほしい」と願うものです。日常の中では、ついテストの点数や、周りの子と比べてあれができた、これができないと気にして焦ってしまうこともありますよね。しかし、将来、親の手を離れた子供を本当に守ってくれるのは、才能よりも「続ける力」です。
大人になって理不尽な壁にぶつかった時、「自分ならまた立ち上がれる」と思えるかどうか。幼い頃から「失敗しても、もう一度やってみよう」という泥臭い経験を重ねることは、子供がたくましく生きていくための何よりの贈り物になります。
子育てや教育の場面で「やり抜く力」という言葉を聞くと、つい「嫌がる習い事を無理やり続けさせること」や「厳しいルールで我慢強さを鍛えること」をイメージしてしまうかもしれません。しかし、やり抜く力とは苦しい忍耐のことではありません。
やり抜く力とは、子供自身が壁にぶつかっても「もう一回やってみよう」と立ち上がれる心のしなやかさのことです。自転車の練習で何度も転んだときや、難しい問題が解けないとき。すぐに「自分には無理だ」と投げ出したり、親にやってもらおうとしたりするのではなく、「どうすればできるだろうか」と自分なりに工夫して向き合おうとする姿勢といってもいいでしょう。
唯一無二の正解がないこれからの時代を生きていく子供たちにとって、失敗しても転んでもダメだったとしても、もう一度自分で起き上がる力は、どんな知識よりも彼ら自身を強くしてくれます。

では、具体的にどうしたらやり抜く力を高めることができるのでしょうか。
やり抜く力を高める上で最も重要なのは、「やらされている」という義務感ではなく、「やりたい」という自分の内側から湧き上がる動機です。これがやり抜く力の原動力となります。
世間的に良いとされていること、親やパートナーに言われことではなく、自分が本当に関心を持てること、時間を忘れて取り組めるものはなんでしょうか。探す時間を意識的につくってみましょう。自分の興味の延長線上に目標を置くことができれば、情熱は自然と保ちやすくなります。
「人間の能力は努力次第でいくらでも伸ばすことができる」というグロースマインドセット(成長思考)を持つことが、やり抜く力の土台となります。才能がすべてという固定思考を手放し、結果に至るプロセスを大切にする姿勢を身につけましょう。これは自分自身に対してだけでなく、子供や部下への働きかけとしても同じです。結果も大切ですが、その裏にある努力や挑戦、改善の姿勢を褒め合うことで、互いに成長思考を育むことができます。
挫折を防ぐためのテクニックとして「If-Then(イフゼン)プランニング」があります。これは、「もし○○という状況になったら、△△という行動をする」という具体的な行動計画をあらかじめ決めておく方法です。
「毎日1時間勉強する」と決めていても、残業でクタクタな日は「今日は無理」と投げ出したくなりますよね。でも、「もし帰りが遅くなったら、テキストを1ページだけ読む」という救済ルールを事前に決めておけば、「ゼロ(やっていない)」になることを防げます。曖昧に「頑張ろう」と気負うのではなく、小さな抜け道をあらかじめ用意しておくこと。それが無理なく継続するためのポイントです。
素人がいきなり富士山の山頂を目指すのはリスクが高すぎるように、今の自分には高すぎる目標を設定すると、どこかで無理が出てしまいます。だからこそ、大きな目標を確実に達成可能なレベルの小さなステップまで分解し、それを一つひとつクリアする体験を繰り返していきましょう。「今日も1日続けられた」「面倒だったけれどやり切った」という積み重ねが自信になります。
自分一人の意志の力だけで頑張り続けるのは、とても過酷なことです。同じ目標を持つ仲間を見つけたり、継続を応援してくれる環境に身を置いたりすることで、やり抜く力は飛躍的に上がります。「誰かに見られている」「仲間と一緒にやっている」という感覚が、良い意味でのプレッシャーとなり、サボりにくい状況をつくってくれるのです。一人で孤独に戦うのではなく、周囲の力を上手に借りることも、やり抜く力を高めるための有効な作戦でしょう。
「今日もまた、理想通りにいかなかったな」とため息をつく日もあるかもしれません。それでも翌朝にはまた起きて、ちゃんと朝食を食べ、仕事に向かい、しっかり1日を生きている。理想と現実のギャップに葛藤しながらも、今日という日を「投げ出さずに生きた」という時点で、あなたの中にはすでに「やり抜く力」の芽が宿っています。
三日坊主になったら、四日目からまた始めればいいのです。気合と根性論だけでは「やり抜く力」は身に付きません。続ける仕組みを作り、小さな「できた」を積み重ねながら、少しずつ自分の中のやり抜く力を高めていきましょう。

\ 監修者 /
富田裕之
公益財団法人モラロジー道徳教育財団コンテンツ開発局長として「心豊かな生き方・働き方」をテーマとしたコンテンツ制作に従事。「正しいのはわかっているけれど、現実では難しい」そんな日常の葛藤に寄り添い、毎日を少しずつアップデートする、温かくも本質的なヒントを届けている。中小企業診断士。キャリアコンサルタント。

\ 執筆者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ
ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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