2025年06月16日
みんなが自分のことに追われて心の余裕がない中で、決して人の頼みを断らないタイプの人、あなたの周りにもいませんか?自分のやりたいことを後回しにしてまで他人のことを引き受けてしまう人が「優しい人」なのは間違いありませんが、いつも他人を優先しているせいで人知れず大きなストレスを抱えてしまうことも。今回はノーと言えない人の特徴や解決法について解説します。
周囲から舞い込むどんな依頼に対しても、決して「できない」とは言わない人がいます。もちろん、その人自身が「何でもかんでもやりたい!」とエネルギーにあふれ、「人から頼まれるのが人生のよろこび」と心から感じているのであれば問題ありませんが、他人に分け与えられるほどに十分な心の余裕がある人は昨今あまりいないのではないでしょうか。
人は平等に1日24時間しか持っていませんから、他人からの想定外の頼みを引き受ければ、それだけ自分の時間ややりたいことに費やす時間が減ってしまいます。その労力に対して感謝されるのであれば、まだやった甲斐があるというものですが、実際はサービス残業や家庭内での無償労働になることも少なくありません。
自分の利益にならないことをわかっていながら断れない心情は、本当に「優しさ」なのでしょうか?人間学のエキスパートで麗澤大学教授の廣池慶一さんが監修した『とことん優しい人はうまくいく』は、ただ優しいだけの人が「うまくいかない」理由について、このように解説しています。
出典:まんがでわかる とことん優しい人はうまくいく――いい人で損しない3つの原則
まずは、ノーと言えない人の特徴を見てみましょう。
人の頼みを快く受けるのは悪いことではありませんが、自分のキャパシティ(許容量)を超えてまで期待に応えようとするのは考えもの。そのような人は他人からの評価を気にして、心のどこかで「いい人に見られたい」という気持ちがあるのかもしれません。
一方、自分で自分を評価するのが苦手な人もいます。何かを達成するたびに親の方を振り返り「見てみて!」とアピールする小さな子供のように、自分の成果を他人に評価してもらうことでようやく「これは自分の成果だ」と確信できるのです。
自らを「価値ある存在として認めてほしい」という願望は一種の承認欲求です。他人軸でしか自分を評価できない人もまた同じ問題を抱えています。
自分のことより周囲や他人を優先することが癖になっている人もいます。自分を後回しにしても夫や子供に尽くす女性が「よい妻」であり「よい母」とされた時代もありましたが、現代においてはそれぞれが自立した生活を送りながら、人生を楽しむ姿を子供に見せることも大切です。
もともとは優しさや思いやりゆえの習慣であっても、それが限度を超えると周囲に「この人はなんでも聞いてくれる」という印象を与えてしまう可能性もあります。人のわがままを助長したり、損な役割ばかりを押し付けられるようになったりして、そんな人間関係に自分自身が疲れ果ててしまうことも。良かれと思ってやったことが逆にネガティブな結果を呼び込んでしまうのです。
子供の頃、両親や先生から「人に優しくしましょう」「誰かからお願いをされたら断ってはいけない」と教えられた記憶から、断ることに自体に抵抗を感じて、何でも引き受けてしまう人もいます。
素直で優しい人ほど、目の前の相手やルールに対して「誠実でいたい」という思いが強く、無意識のうちに自分で自分の首を絞めてしまいがち。実際の社会は理想や性善論だけでは生きていけませんから、ときにはしたたかになる覚悟も必要です。
争いごとが苦手な人は、揉めごとや険悪な空気の原因となっている問題について「いいよ、大丈夫」「自分がやっておくから」と引き受けてしまう場合があります。損な役回りを受けることで、「その場が丸く収まってほしい」と考えての行動ですが、実際は問題を先送りしているにすぎません。
それは優しさというよりも「その場を穏便にやりすごしたい」というエゴでしかありません。「雨降って地固まる」のように意味のある対立や衝突もあります。その機会を失ったせいで問題が長引いてしまっては本末転倒ですよね。
人間関係が崩れることを恐れて、断るという選択肢を持たない人もいます。人に嫌われたくないという不安が強く、断ることで「友達(恋人)が離れていってしまうのではないか」と相手に気を遣いすぎてしまうのです。
譲ったり譲られたり、与えたり与えられたり。立場が自由に入れ替わるのが友達関係の醍醐味のはず。恋愛でもお互いを尊重することができないと、その関係はいびつになって長続きしません。ノーから始まる出会いや信頼関係もありますから、いつもどちらか片方が本音を言えずに我慢しているとしたら、それは対等な関係とは言えないのではないでしょうか。
やりたくないのに断れないのではなく、自己主張が弱く「人から指示される方がラク」「言われた通りできると安心する」という人がいます。自分の意思や意見を持っておらず、相手に流されるように、反射的に「イエス」と言ってしまうのです。
このようなタイプは子供の頃に優秀だったという人も少なくありません。親から言われた通りに勉強していれば成績が伸びたり、受験に成功したりするかもしれませんが、先の人生まで親の言うことばかりを聞いているわけにもいけません。遅かれ早かれ人生のどこかでノーと言うことが必要になるタイミングがやってきます。
ノーと言えない性格を直すためには、どのようなことを心がければいいのでしょうか。
ノーと言うことに罪悪感を抱く人もいますが、実際は自分の限界や本音をただ伝えているだけであり、その相手を否定しているわけではありません。むしろ、自身の状況や実力の程度を正直に伝えているわけですから誠実な対応とも言えます。
確かに、相手のことを全面的に肯定する「イエス」という言葉は魅力的です。かつて、ロンドンのギャラリーでたまたまオノ・ヨーコの個展を訪れたジョン・レノンは、天井に書かれた小さな“YES”の文字に感銘を受け、2人の運命的な出会いにつながったと言われています。このようなエピソードがある一方、「ノー」という言葉にもまた周囲に流されまいとする静かな強さがあります。本当に必要なときにイエスと言うためにも、きっぱりとノーを伝えるべき場面もあるでしょう。
いきなり大きなことを断るハードルが高い場合、小さなことから断る練習をしてみましょう。コンビニのレジで「袋いりません」と伝える、職場でまわってきたお土産のお菓子を「私は遠慮しておきます」と次の人にまわすなど、意識して断ることへの抵抗感を下げていくのです。出張のお土産などは相手も「せっかくならどうぞ」という気持ちですから、好きでもないものを無理に受け取る必要はないのです。
その場でとっさに断れなかったことについて、後から思い出して「何でできるって言っちゃったんだろう」と後悔したことはありませんか?はっきりノーと言えないのは、自分の中の「嫌なこと」「心地いいこと」などの基準が定まらず、曖昧だからかもしれません。
誰にも「ここは譲れない」という領域があるはず。自分にとって大切なことを思い出してみると「これは断っていい」と確信を持って判断できるようになります。
ノーと言うことに慣れない人は、相手を傷つけない断り方をいくつか用意しておくと便利です。「あいにくですが本日は難しいです」「せっかくのお話ですがお受けできかねます」など文章の頭にクッション言葉を加えると、やんわりと断りの意思を示しながらも全体の印象がぐっと柔らかくなります。
会話の最後に「お心遣いに感謝します」「またの機会にお願いします」などと感謝を込めた上で次回につながる言葉を付け加えると、お相手も安心してくれるでしょう。
断りの意思を伝えたところで、それでもなお引き下がってくる相手はあまりいないもの。逆に「すぐに察することができず申し訳ない」と恐縮されてしまうことも少なくありません。
あっさり受け入れる相手の反応に拍子抜けするかもしれませんが、相手にとってはそれくらいの些細なことということ。自分自身の「絶対に断れない」「断ったら嫌われる」という想像が杞憂だったと気付かされるでしょう。ノーと言えないのは、他人からの圧力ではなく自身の問題という場合もあるのです。
どうしても自分で自分を変えるのが難しいと感じる場合、専門家のサポートを受けることも考えてみましょう。過去のトラウマ体験や心理的な障壁などが原因になっているケースも珍しくありません。
カウンセリングは主に心理的な悩みの解消を目的としており、コーチングは対話を通じて自発的な成長をうながすコミュニケーション技法です。最近はオンラインのサービスも充実していますから、必要に応じて活用してみてください。
自分の利益よりも他人の幸せを優先しようとする「利他の心」は尊いものですが、前述の廣池慶一さんは「利他の心が行き過ぎた自己犠牲は長く続かない」とも伝えています。
前掲書
オスカー・ワイルドによる『幸福の王子』は美しくも悲しい物語です。貧しい人々の暮らしに心を痛めた王子の像が、王子に共感した小さなツバメの力を借り、自らの宝石や身体を覆う金箔を人々に分け与えて最後はみすぼらしい姿になり、冬が来る前に南に渡ることを諦めたツバメも最後は息絶えてしまう。博愛と自己犠牲を描いた短編小説です。
そこまで極端でなくとも、いつも人に譲ってばかりでいては、やがて心が擦り切れてしまいます。周囲や相手に配慮することも大切ですが、自分自身が満たされているからこそ他人に手を差し伸べられるという側面もあります。その親切や思いやりが自分を犠牲にしすぎたものではないか、そうであるならば他の方法はないのか?少し立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。
今回は人の頼みを断ることなく、一見すると心優しい人に見える「ノーと言えない人」の限界や問題点について考えてきました。誰かの力になりたい、希望を叶えてあげたいという思いやりは大切ですが、そのためには自分自身が満たされ、充実していることが前提であることをお忘れなく。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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