2025年08月22日
人と話すだけで疲れる、沈黙が何よりも苦痛、慣れない場所でスムーズに言葉が出てこないなど、「人付き合い」に苦手意識を抱く人は少なくありません。それでも社会の一員として暮らす限り、人間関係から逃れることができませんから「自分で何とかするしかない」のもまた事実。
この記事では、人付き合いが苦手な人に共通する特徴や原因、克服する方法についてもご紹介します。
まずは、人付き合いが苦手な人の分かりやすい特徴についてご紹介します。
人前で話すと緊張してしまう、会話のきっかけをつかむのが苦手など、「そもそも話すのが苦手」という人は少なくありません。中には、他人から声をかけられてもうまく応えられず、沈黙がちで「会話のラリーが続かない」という人もいるでしょう。
これらの人たちは、決して何も考えていないわけではありません。むしろ、さまざまなことに興味関心を持つなど、頭の回転が早い人も多いのですが、コミュニケーションへの不安や苦手意思が強く、他人を前にすると気持ちが焦って口から言葉がうまく出てこないのです。
自然体で人と向き合うことが苦手で、目の前の相手や周囲の人々に嫌われないよう相手の好みに合わせて振る舞い、「こう言った方がいいかな?」と言葉を選びながら発言する傾向があります。
「嫌われたくない」という気持ちが強く、相手のリアクションを気にしすぎて本来言いたいことが言えなくなってしまう人もいます。言葉選びに慎重になりすぎて断定的な言葉を避け、相手に合わせてはっきりと自分の意見を伝えないので、人によっては周囲から「あの人は本心を明かさない」と思われているかもしれません。
基本的に自信がなく、根底に「自分なんてたいしたことない」という自虐的な自己イメージがあります。周囲の人に対しても「どうせ馬鹿にしている」とネガティブな印象を持っており、なかなか他人を心から信頼することができません。
集団行動よりも一人の時間に心地よさを感じるタイプの人が多いですが、同時に「集団から離れたくない」「孤立したくない」という葛藤も抱えています。そのせいか、グループ内の立ち位置が定まらず、集団から浮いてしまうこともあるようです。
他人と同じ空間にいる状況が落ち着かず、いつも気を張っているため、人と短時間話すだけでもグッタリ疲れてしまう人がいます。このような人にとっては「会話=エネルギーを使うこと」に感じられるようです。真面目で努力家な人が多いですが、深刻に考えすぎて「これじゃダメだ」と自己嫌悪に陥ったり、「もっとがんばらなきゃ」と焦ったりするのは逆効果です。
人との間に壁をつくっていると思ったら、心を許した相手には依存するなど、人との距離の取り方がアンバランスな人がいます。人との距離の取り方が極端なために相手を戸惑わせ、周囲から疎まれがちな人も。本人としては「理由もなく一方的に嫌われた」と感じて傷ついてしまいます。
家庭であれば親や兄弟、学校であればクラスメイトや担任の先生など、それぞれの場所にさまざまな関係性があります。私たちはその場で相手との適切な距離感を見極め、目上の相手であれば敬語を使うなどの行為を当たり前に行っていますが、これは実はかなり難易度の高いことなのです。
人はどのような原因で人付き合いが苦手になってしまうのでしょうか。代表的な原因を5つご紹介します。
対人スキルはある日、突然に身に付く能力ではなく、子供の頃から徐々に身に付けていくもの。小さな子供は両親や保護者などから無条件の愛情を受け、成長するにつれてできることを増やし、「自分はこれでいい」「自分はできる」という自己肯定感や自己効力感を身に付けていきます。
一方、子供の頃に抑圧的な親のもとで育ったりいじめを受けたりするなど、幼少期の環境や経験が大人になってからのコミュニケーション能力に悪影響を及ぼすことも少なくありません。
過去に嫌な思いをした経験が、人付き合いにネガティブな印象を植え付けてしまっている場合もあります。特に家族や友達、恋人など親しい関係でのトラブルを経験すると、すぐに気持ちを切り替えるのは難しいもの。「あんな経験をするくらいなら誰とも付き合いたくない」という気持ちになっても不思議ではありません。
もともとの性格も大きく影響しています。内向的で深く考えるタイプの人は警戒心が強いことが多く、新しい人間関係に慎重で人と打ち解けるのに時間がかかります。本人としては、じっくりと関係を築いている段階かもしれませんが、周囲の目には「人付き合いが苦手な人」と映ってしまうことも少なくありません。
家庭や学校などの小さなコミュニティ内のせまい人間関係しか経験しておらず、その外に出ることに不安を感じて、それ以外での人付き合いに積極的になれない人もいます。家では横暴に振る舞うのに、一歩外に出ると引っ込み思案になってしまう“内弁慶”もこのタイプです。
社会人になると否が応でもさまざまな人と関わる必要がありますから、多くの人は経験を積むことで相手の気持ちを読んだり、シチュエーションに合わせた適切な言葉選びができたりするようになり、苦手意識も徐々に薄まっていきます。
オンライン上のコミュニケーションが主流になり、オンライン上でも人とつながることができるようになった一方、近年は対面でのコミュニケーションとのギャップも生じています。中高年世代にとっては当たり前の電話対応が苦手な若手社員が増えているのは、彼らがチャットやテキストでのコミュニケーションに慣れた世代だから。返信のスピードや連絡の頻度などで世代間ギャップを感じている人も多いことでしょう。
また、連絡への返信をスタンプなどで済ませる行為に慣れてしまうことで、感情を言語化する機会が失われ、対面での会話に難しさを感じる人もいるようです。

苦手意識を克服する方法や考え方についてもお伝えします。突然、自分にとってハードルの高いことをやっても長続きしませんから、できることから少しずつ「自分のペース」で取り組んでみませんか。
いきなり大勢の前で話したり、人間関係をひろげようと躍起になったりする必要はありません。人付き合いが苦手な人にとっては、「同僚との雑談に少し参加する」とか「いつも見かけるあの人にこちらから挨拶をしてみる」だけでも大きな一歩。まずは身近なところから始め、慣れてきたら徐々に範囲を広げていきましょう。
「短時間」で「少人数」であれば、それほどハードルは高くありませんし、回数を重ねれば抵抗感も薄れていきます。場数を踏んだ経験は自信にもつながり、いつしか人付き合いがそれほど苦ではない自分に気づくはずです。
漠然と苦手意識を持っているだけでは、ますます不安が募るもの。気持ちの余裕があるタイミングで、改めて自分の苦手意識の“正体”を掘り下げてみましょう。
一概に人付き合いが苦手といっても、その原因は人によってそれぞれ異なるもの。自分は「沈黙が怖い」のか「相手にどう思われるかが怖い」のか、はたまた「大きな声で話す圧の強い人」が苦手なだけなのか。特に苦手なシーンや会話の相手を知っておくだけでも、少し気持ちが落ち着きます。
『7つの感情』や『私、合ってますよね?』などの著書を持つ臨床心理士の玉井仁さんは、自己理解を深めることで自分自身の課題が明確になり、その課題に対する「対策も立てやすくなる」と言います。
出典:私、合ってますよね?しちゃう、できない、やめられないの正体
自分がどういう人間で、何を得意とし何を苦手としているのか。自身の傾向や性格、過去の経験を見つめ直してみましょう。
「友情は喜びを倍にし、悲しみは半分にする」という言葉があるように、人が生きるためには信頼でつながれた人間関係が欠かせないものです。ですが、友達は「多ければ多いほどいい」というものではなく、何でも言い合える“親友”と呼べる存在は「5人程度が限界」という説もあります。
ストレスをためながら大勢の人と付き合っても意味はありませんが、たった一人、一緒にいて気持ちが安らぐ「心許せる存在」が人生を豊かにしてくれることも少なくありません。
前掲書
シチュエーションや相手に合わせたコミュニケーションの方法を知っておくと、人付き合いの難しさは驚くほど軽減します。会話の基本は「共感」と「傾聴」。適度なタイミングでのあいづちやオウム返し(復唱)をはさむことは、話の内容を「理解している」という意思表示ですし、質問をすれば相手に興味を持っていることが伝わります。
チャットツールやSNSが身近になった現代において、人付き合いのスキルはすでに必修科目。書店に行けば「疲れない人付き合いのテクニック」や「人に好かれる話し方」といったタイトルの本がずらっと並び、YouTubeなどでも似たようなテーマの動画がたくさん投稿されていますから、学ぶ意欲さえあれば教材には困らないはずです。
もともとはネットスラングから生まれた「陽キャ」「陰キャ」という言葉。近年はすっかり多くの世代の人々が口にする言葉となりました。
前者は明るく「陽気なキャラクター」、後者は暗めで「陰気なキャラクター」という意味ではありますが、いずれも個人の性質の違いであり、実際のところ「どちらがいい」というものではありません。無理をして明るく振る舞おうとすると余計に疲れて、ますます人付き合いがおっくうになってしまう懸念もあります。
身近に苦手な人がいて完全に避けられない場合は、どのように付き合うのがいいのでしょうか。
仕事上の多くの人間関係は、ある種の形式的なやり取りで成り立っています。仕事をする上で最も大切なのは「与えられた役割をこなしながら求められる成果を出すこと」ですから、それさえできていれば必要最低限の礼儀と挨拶、メールのやり取りなどのシンプルなコミュニケーションだけでも十分に成立します。
仕事やプライベートで、他人とつかず離れずの関係を望むのであれば、仕事の連絡はきっちりやるけれどそれ以上は干渉しないタイプの“キャラ”になりきるのもひとつの手。最初は違和感を持たれるかもしれませんが、周囲の人もそのうち「あの人はそういう人だから」と受け入れてくれることでしょう。
他人に対して「話せば分かってくれるはず」「こちらに合わせてほしい」などと期待しすぎると、希望通りにいかなかったとき、なんとなく裏切られたような気持ちになってしまうもの。相手が変わることを求めるのではなく、できるだけ「自分が変わる」または「自分の気持ちは自分で調整する」と割り切った方が心の負担は軽く済むでしょう。
前出の玉井さんは「自分の感情の面倒が見られると自分がラクになる」とも伝えています。人付き合いで生じたネガティブな感情を引きずっていると、モヤモヤした気持ちからなかなか抜け出せません。そのようなとき、自分だけの「切り替えスイッチ」でリセットできる習慣を身に付けておくと、人付き合いだけでなくストレスやプレッシャーにも強い人間になれます。
切り替えの方法は人それぞれ。いろいろ試して自分に合ったやり方を見つけてみてください。アクティブな人には適度な運動や筋トレもストレス発散になりますし、中には「机に向かって無心に勉強するとすっきりする」という人もいるかもしれません。

他人と距離を置きがちな人は「他人との関わりに時間を取られずに済んでいる」ともいえます。自分の好きなように時間を使えるのですから、人によっては好ましい状況でしょう。最後に、人付き合いが苦手なことで生まれるメリットについてもお伝えします。
どのようなものであれ、ひとつの分野についての専門知識を身に付けスキルを磨くためには、ある程度の時間と集中力が必要です。その際、交友関係に時間を取られず、全力投球できる環境に身を置いている状態は大きな強みでしょう。
そもそも人と関わることが少ないので、周囲に気をつかって意見を合わせたり、そのときの流行や同調圧力に流されたりしにくい環境にいます。必要以上に他人と交わらないことが、ブレない「自分の軸」をつくり、みずからの独自性を高めることもあるかもしれません。ただし、他人のアドバイスを得られない状況で独善的にならないようにだけ気をつけてください。
人付き合いに苦手意識がある人は「広く浅く」より「せまく深く」、少人数で深い付き合いを好む傾向があります。「陽キャ」や「陰キャ」同様、どちらの方がいいというわけではありませんが、親しい間柄の人々との間で築いた信頼関係は長い人生の支えになります。
人と関わることを極端に避けすぎる場合は、メンタル由来の症状や発達的な背景を考慮したほうがいいケースもあります。
例えば「繊細さん」の呼称で知られるHSP(ハイリ―・センシティブ・パーソン)の傾向を持つ人は、他人の表情や他意のない言葉などの些細な刺激にも敏感に反応してしまい、人と会うだけでも疲労を感じるといいます。
また、ASD(自閉症スペクトラム症)の人は、いわゆる「空気を読むこと」が苦手です。相手の表情や曖昧なニュアンスなどから言葉の真意や感情の機微を読み取ることができないという特徴があり、その場にそぐわない言動をしてしまったり、グループ内で浮いてしまったりするなど、人間関係やコミュニケーションに困難を抱えることも少なくありません。
HSPやASDは病気ではなく個人の気質や特性ですが、生活や人間関係にまで支障をきたしている場合は、ひとりで悩まずに心療内科や心理カウンセラーなどの専門家に相談してみましょう。
人付き合いが苦手なこと自体は決して悪いことではなく、個人的な感覚でありひとつの個性です。とはいえ、社会は人と人とのつながりによって成り立っていますから、山奥にこもって自給自足の仙人のような生活をしない限り、現実的には「人との関わり」から完全に離れることはできません。
誰もが社交的なムードメーカーである必要はなく、職場や学校など身近なコミュニティにおいて必要最低限のコミュニケーションが取れればいい、という考え方もあります。自分自身の傾向や相手との疲れない距離感を知って、自然体で自分らしくいられるあり方を見つけたいですね。

\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ
ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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