2025年05月16日
どんな人であっても日々を過ごす中で気持ちの浮き沈みは必ずあるものです。いつもは困難な状況にも耐えられる人でも、いったん気持ちがネガティブな方向へと振れるとそこから抜け出せなくなってしまうことは珍しくありません。今回はネガティブ思考の特徴やその要因、心理学の視点で考える“メリット”についても解説します。
ネガティブ思考とは、物事を過剰に悲観的にとらえたり失敗や悪い結果ばかりを考えたりしてしまう否定的で消極的な思考パターンです。些細な失敗を気にして自分を否定したり、他人の言葉や振る舞いに実際は存在しない悪意を見出したりするなど、無意識に物事の悪い面やマイナス面に反応してしまう傾向があります。
子供の頃から「ネガティブな子だった」という人もいれば、環境の変化などで一時的にネガティブに傾いてしまうことも珍しくありません。
大学受験や就職活動、婚活など他者から評価されたり、数字で振るい落とされるような状況に置かれると緊張状態が続き、ネガティブな気持ちになってしまう人もいるでしょう。このような思考は不安やストレスにつながり、人間関係や健康状態に悪影響を及ぼすこともあります。
まずはネガティブ思考に陥りやすい人の特徴を見てみましょう。
自己評価が低く周囲の反応に敏感な人はネガティブ思考に傾きがちです。誰から言われたわけでもないのに「自分はできない人間」と卑下して、挑戦する前から失敗することを考えてしまうのです。責任感が強く、実際は周囲から頼りにされているにも関わらず当人はそのように感じておらず「自分はいなくてもいい存在」と考えるなど、自虐的で引っ込み思案な面もあります。
「自分はダメだ」が口癖で、他人と比べて自分が劣っているところが気になるという人もいます。人によって得手不得手が違うのは当然のこと。他人に対してはそう思えるのに、なぜか自分のこととなると足りないことばかりが目に付いてしまうようです。
本来、自分のライバルは「きのうの自分」であり、人と比べる必要はないのですが、SNSで他人の成功や幸せそうな様子が目に入ってくる昨今の状況で心を穏やかに保つのは難しいのかもしれません。
完璧主義な性格もネガティブ思考の一因です。高い理想を掲げ、それに向かって突き進むこと自体は素晴らしいのですが、それが「100%でなければ意味がない」などと極端な思い込みにつながってしまうと、そこに届かない自分を許容できなくなります。
誰もが最初から「なんでもできる」わけではなく、そのプロセスにこそ価値があるという考え方もあります。一度の挑戦で完璧にやろうと思わず、少しずつ成長しようと努力する姿勢が大切です。
過去の失敗や心配事を何度も思い出す反芻(はんすう)思考もネガティブ思考を悪化させる要因です。新しい挑戦や大きな挑戦の前に失敗があるのは当たり前です。そんな失敗の先にこそ成功があるはずですが、人前で強い叱責をされたり、強いショックを受けたりした経験があると「失敗するのが怖い」「もうあんな思いはしたくない」と考え、次の一歩を踏み出す勇気が出なくなってしまうのです。
ストレスをためやすい人もネガティブ思考になりやすいタイプです。どんな人でも普通は1日に数回くらい「嫌なこと」や「うまくいかなかったこと」があるもの。
多くの人はそれを「うれしかったこと」や「うまくいったこと」で上書きして新しい明日を迎える心の準備を始めますが、なかなか心の切り替えがうまくいかない人もいます。リセットできなかったストレスが慢性的に積み重なると、精神的な安定感を失って悲観的な感情を抱きやすくなります。
ネガティブ思考に陥ってしまう要因を考えてみましょう。
過去の失敗体験がネガティブ思考につながることは珍しくありません。もともとはポジティブなタイプだった人が、あるときを境にネガティブ思考に転換してしまったというケースもあります。嫌な記憶が心に深く刻まれてしまうと同じような状況に置かれた際、ポジティブな気持ちよりも恐怖や不安が先立ってしまうのです。
幼少期の家庭環境や人間関係が影響していることもあります。親の干渉が強かったり、しつけが厳しかったりすると、褒められた体験をしないまま「できないこと」ばかりを指摘されることになります。
そのような条件付きの愛情を受けると、子供は「がんばらなくては愛されない」という不安定な気持ちのまま成長します。また、親がネガティブ思考や極度の心配性だったりすると、無意識にその性質を受け継いでしまうことがあります。
どんなに打たれ強い人であっても、ストレスや疲労が際限なく蓄積するような状況が続くとネガティブになります。脳は感情のコントロールも担っていますから、イライラしたり、強い不安を感じて落ち込みやすくなるのは、本人の性格に問題があるわけではなく「脳疲労」が疑われる状態です。視野がせまくなり、物事のマイナス面だけが目につくようになるのも脳の疲労によるものです。
ネガティブな考え方そのものではありませんが、人の気質やストレス耐性の強弱、表れやすい感情には遺伝的な要因が関与しているという研究もあります。
多くの人がスマートフォンを持ち歩き、常に誰かや何かとつながっている状態が当たり前の時代です。それにより心身の不調を訴える人も多く、決して歓迎すべきことばかりではないという認識も広がり始めました。
特にSNSなどは短文やヴィジュアル情報でダイレクトに目に入ってくる分、じわじわとメンタルに影響を及ぼします。他人と比較して自己嫌悪や劣等感が刺激されることもあれば、自分が発信した投稿への反応が「気になって仕方がない」ということも。うまく活用すれば楽しいサービスですが、ネガティブ思考に陥るきっかけにもなり得る存在と心得ておきましょう。
臨床心理士の玉井仁さんの著書『7つの感情』では怒りや恐れ、不安といったネガティブな感情が生まれる背景や感情との付き合い方について解説しています。玉井さんはこれらの感情は「自分が置かれた状況や状態を教えてくれる、心の中に備え付けられた大切なアラーム」であり、「あなたを守っている」と伝えています。
ここからは『7つの感情」の内容を参照しながら、ネガティブな感情の役割やメリットについてお伝えします。
ネガティブ思考の人はリスクに敏感で、問題が起こる前にできるだけ回避しようとします。そのため、リスクの少ない方法を選択する判断力が身に付き、事前にトラブルを避ける能力に長けています。
楽観的な人は「物事はきっとうまく運ぶはず」という根拠のない自信や「この人は多分いい人だろう」という無防備な性善説によってだまされたり、危ない目に合ったりすることがあります。
その点、ネガティブ思考の人は簡単に警戒心を解きません。心のどこかで常に今より状況が悪くなった場合の「最悪の事態」を想定しているため、突発的なトラブルが起こった際もパニックにならず冷静に対応できます。
ネガティブ思考の人はスケジュール管理においても慎重派です。物事が予定通りにいかない可能性を考えて計画を立てるので時間に余裕があります。「仕事は準備が9割」といわれるように、ビジネスにおいては実際の作業や当日の行動よりも「事前の準備」によってその成否が決まるといっても過言ではありません。
これは仕事だけでなく勉強や芸事においても同じことが言えます。楽観的に構えている人よりも、ネガティブゆえに事前に徹底的に対策を講じている人の方が良い結果を出すことができるでしょう。
出典:『7つの感情 知るだけでラクになる』
恐怖という感情は「現在の状況における危険を察知する能力」であり、その身に近づく危機に素早く気づく力です。自然界を生きる野生動物は少しでも油断をすれば命を落とすことにつながりますから、いつも周囲に気を配りながら、音やにおい、周囲の動きを敏感に察知してすぐに逃げられる体勢でいることで自分や仲間の命を守っています。
人が街の中を歩いていて敵に襲われて食べられるという状況はそう起こりませんが、小さな違和感を「きっと大丈夫だろう」とスルーする楽観的な人よりも「自分(自分たち)にとって不都合なことが起こるかもしれない」と考えるネガティブ思考の人の方がサバイバル能力に長けているとも言えます。
「自分にはまだ足りない部分がある」と考えるネガティブ思考は「もっと成長したい」「改善したい」という気持ちの表れでもあります。現状に満足することなくモチベーションを保ちながら努力を続けようとする姿勢は誰もが持っているものではありません。見かたによってはそのようなネガティブ思考は、なくすべき短所ではなく自分の強みにもなり得る“長所”です。
ネガティブ思考の持ち主は他人の痛みにも敏感です。自分が傷ついた経験があるからこそ他者に対する配慮の心が働き、相手を傷つけないよう言葉を選んで慎重に話します。それは悪意のない言葉が不本意に誰かの心を傷つけることがあることを知っているから。苦しい気持ちや悲しい気持ちを知る人は「優しい人」でもあるのです。
ネガティブ思考にプラス面があることを知った上で、それをポジティブ思考に変換する方法についても考えてみましょう。
まずは頭の中にぐるぐるとネガティブな感情が渦巻いた状態を脱することから始めましょう。アメリカで流行した後に日本でも知られるようになった「ジャーナリング」という手法をご存じですか?
「書く瞑想」ともいわれ、頭の中に浮かんできた思考や感情をひたすら紙に書き出す(吐き出す)ことで思考が整理され、自分自身と向き合う効果があるといわれています。紙に書くことが難しい場合はスマートフォンのメモ機能を使ってもいいですね。
大きな目標を立てるのも悪くはありませんが、それを達成するためには長く時間がかかります。手っ取り早くネガティブ思考を抜け出したいのであれば、短いスパンで小さな目標を達成しながら成功体験を積み重ね、自己効力感(セルフ・エフィカシー)を高めることが大切です。
自己効力感は「自分なら必ずできる」という感覚のことです。それは言い換えると「自信を持つこと」でもあります。「ありのままの自分」の存在価値を認める自己肯定感(セルフ・エスティーム)とは似て非なる感覚です。
人は置かれた環境に大きな影響を受けます。まさに「朱に染まれば赤くなる」の言葉通り、付き合う相手によって簡単に良くも悪くもなり得るのです。もともとネガティブ寄りの考えの持ち主であっても、ポジティブな雰囲気の集団の中にいると、自然と前向きな考え方をするように変化していきます。
一方で身近な友人や家族からの言葉によって簡単にネガティブな方向へと引き戻されてしまうこともありますから、ネガティブ思考を脱ぎ捨てポジティブな自分に変わりたい場合はそのような相手からはしばらく離れることも検討してみましょう。
ネガティブな自分を責めたり、無理に変わろうとしたりするのではなく「まるっと肯定してみる」という方法もあります。先ほどお伝えしたネガティブ思考のメリットも踏まえて、いったん「そんな自分でもいいじゃないか!」と受け入れてみるのです。
もし、ネガティブな自分が顔を出すことがあっても「またやっちゃったな」くらいに考えるだけで大丈夫。一見、投げやりな対応に思えるかもしれませんが、自らの状況を俯瞰(ふかん)して言葉にできているわけですから悲観する必要はありません。
自分の中のネガティブ思考の存在を認め、表現やニヒルな笑いに昇華することに長けた小説家やお笑い芸人の方々の考え方も参考になります。
ネガティブな自分を受け入れることができたなら、自分をポジティブにする生活習慣も取り入れてみたいものです。
バランスの取れた食生活や睡眠、適度な運動を意識する、朝起きたら日光を浴びる、1日の終わりには湯船に浸かって体を温めるなどの基本的なことから、趣味や好きなスポーツ、家族やペットと過ごす時間を大切にするなど、自分に合ったリフレッシュやリラックスの方法も知っておきましょう。
他国の人々と比べて日本人は「休み下手」といわれます。平日は睡眠時間を削って働き、週末に出かける気力も湧かないような毎日で心は満たされません。これを機に家族や趣味など自分が大切にしていることやその優先順位を改めて見つめ直し、仕事と余暇のバランスについても考えてみましょう。
ネガティブ思考はその扱い方によってマイナスにもプラスにも振れるものであることはおわかりになったでしょうか。ネガティブ思考をうまく扱うことができれば、仕事での計画性の向上や人への思いやりにつながりますが、一度ハマると抜け出せなくなってしまう危険もはらんでいます。
無理やりにポジティブな人になろうとしても意味がありません。自分自身の傾向を客観的に見つめ直したりポジティブな人の視点を取り入れたりするなど、今の自分にできることから試してみましょう。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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