2025年04月25日
自分から動かず、指示されたことにしか取り組まない人を揶揄して「あの人は指示待ち人間だ」などと言うことがあります。指示やマニュアルがないと動けない人は主体性に欠けるとされ、職場などでは好ましくない人材として扱われます。しかしながら、場合によっては個人の問題ではなく環境やシステムに原因があることも。今回は「指示待ち人間」の特徴や周りに与える影響について解説します。
自分から行動を起こすのが苦手で、周囲から背中を押されないと動けないのが「指示待ち人間」です。担当の業務や与えられた仕事には一生懸命に取り組みますが、新しいチャレンジや状況に応じた臨機応変な対応はちょっと苦手。そのため、周囲から見るとやる気がなく責任逃れをしているように見えてしまうことも。
このタイプの人は「自らやるべきことを見つけよう」という気持ちが弱く、行くべき方向を指し示してくれるリーダーに引っ張ってもらわないと手持無沙汰になりがちです。場合によっては、組織全体の効率の妨げになることもありますから、スピード感を重視するような組織にはあまり向いていないかもしれません。
まずは、指示待ち人間の特徴から見ていきましょう。
自分から意見を述べたり新しい提案をしたりすることが苦手です。与えられた仕事を淡々とこなす能力には長けているものの、一度決めたことを後から変更するような提案や改善策を受け入れることに心理的なハードルを感じる人もいます。オリジナルな創意工夫よりも、マニュアル化された仕事や過去のやり方にならって物事を進めていくことにやりがいを感じるタイプが多いようです。
自分の判断で行動することを避けるのは、無意識に「責任を取りたくないから」かもしれません。新しいチャレンジに失敗はつきものですが、頭の中で温めているアイデアがあっても、それを行動に移して失敗した場合に責任を追及されるのが何よりも嫌なのです。やりたい気持ちとリスクを天秤にかけた上で「言われるまで動かない」というスタンスを取っています。
新しい仕事に取り組むのもあまり得意ではないようです。職種によっては業務内容のバリエーションが広く、その場で柔軟な対応が求められる仕事も少なくありませんが、慣れ親しんだルーティンワークよりもアクシデントやトラブルの可能性は高くなります。想定外の出来事もポジティブにとらえて成長の機会に変えていく人もいますが、指示待ち人間は失敗を「なんとしても避けるべきもの」と考えています。
いつも他人からの指示を頼りにしてしまうのは、自分に自信がないのもひとつの理由です。それなりの経験を積み、周囲から仕事を任せられるだけの能力を持っているのに、自分の判断や行動に対し、自分自身で「これでいい」と承認して一歩踏み出す勇気が湧かないのです。人によっては育った環境や家族関係、過去の失敗体験が影響している場合もあります。
新しい環境に飛び込み、人間関係を広げていくことにも消極的なタイプの人が多いようです。毎日違う人と会わなくてはいけないような仕事よりも、変化のない環境や長い付き合いの人間関係を好む傾向があります。
他人に気軽に質問や相談をすることにも苦手意識があり、周囲から「いまどんな状況?」と確認されるまで自分から報告しないので業務連絡がスムーズにいかない場合も。それでは上司や同僚からの信頼を得るのは難しいでしょう。
周囲に指示待ち人間がいると、周りにどのような影響があるのでしょうか?
指示待ちタイプが多い組織では、リーダーがすべての指示を出さなくてはなりません。そのような状況では個人がその場で物事を判断し、処理をするというスピード感が失われて組織全体の効率や生産性が下がります。目の前の仕事に対して「自分ごと」という意識が薄く、「チーム全体で目標を達成する」というような士気の妨げになる可能性もあるでしょう。
革新的なアイデアや改善案は、固定された業務や保守的な人間関係からは生まれません。いつもとは違うプロセスや雑談など、一見すると仕事の本筋とは関係のないようなことが、新しい発見や発想の転換につながることも。「言われたことだけやります」という姿勢は向上心に欠けるだけではなく、周囲とのコミュニケーションを拒絶しているようにも受け取られ、チーム全体のモチベーションにも良くない影響を及ぼします。
「自分で考えて動かない」という姿勢は、自らが担うべき責任を放棄しているのと同じことです。給与や雇用形態によって責任の重さや裁量権の範囲が異なることはあれど、同じ立場にも関わらず一部の人に責任と負担が集中する状況では、より大きな責任を負う側がいつも不公平感を抱えながら仕事をすることになります。
自分で動き出すのが苦手な人も最初から「指示待ち人間」だったわけではないのかもしれません。そうなった要因や背景についても考えてみましょう。
子供のころや新入社員時代など、過去の失敗体験を長く引きずる人がいます。自ら行動したことで生じた失敗に対して親や上司から責められたり、強く叱責を受けたりして心が傷つき、「あんな思いをするくらいなら、自分から動かないほうがいい」と思い込んでしまったのです。
過干渉な親のもとで育ったり、規律や管理が厳しすぎる企業文化だったり。そのような環境では、指示通りの行動を行い、決められた範囲で行動することが「いい子」であり「いい社員」とされています。決められたレールをただひたすらに進むことを求められ、日常的に細かすぎる指示を受ける立場に慣れてしまうと、物事を自分の意志で決定して行動することに抵抗を感じるのは当たり前です。
自己肯定感の低さが影響しているケースもあるでしょう。自己肯定感とは「ありのままの自分」を肯定的に受け止め、尊重しようとする温かな感覚です。「試合で勝ったから」「テストで○○点とったから」といった理由のある自信や勝ち負けの問題とは異なり、自分の良い点も悪い点も「まぁいいか」とそのまま受け入れて、たとえ失敗したとして「次はできるはず」と前を向く力でもあります。
このような自己肯定感が十分に育っていないと、経験を積んでスキルを磨いても、自分の選択に自信が持てないまま他者の意見に依存しやすくなります。
臨床心理士の玉井仁さんは著書『私、合ってますよね?』で人の無意識の行動パターンや思考の癖に目を向け、それらの性質に「自分を検索中さん」「コスパ・タイパ至上主義さん」「肩の力が抜けないさん」などの名前を付けて解説しています。
登場人物のひとりである「これでいいのかな?さん」についてご紹介しましょう。この人物ははなぜだか「自分はできない」と強く思い込み、自分がなく周囲の意見に従ってしまうタイプで「指示待ち人間」の要素も持っています。この人物が持つ行動パターンと心構えを一部ご紹介します。
あなたに当てはまる項目はあるでしょうか?
出典:『私、合ってますよね?しちゃう、できない、やめられないの正体』
著者の玉井さんは「これでいいのかな?さん」がとらわれがちなマニュアルやルールについて「時としてルールは臨機応変に調整できることが大切」とも述べています。
前掲書
「指示待ち人間」の自覚があり、できればそこから抜け出したいと思う人に向けて、改善のためのアドバイスをお伝えします。
自分なりの目標を設定するなど、自分で考えて行動する機会を増やして「小さな成功体験」を重ねることで自分自身に対する信頼感が深まります。自信や信頼を少しずつ積んでいく過程で、安定した自己肯定感につながることもあるでしょう。
大きな組織の末端にいるよりも、小さな集団のトップになるほうがいい、という意味を持つ鶏口牛後(けいこうぎゅうご)という四字熟語があります。今は指示待ち人間に甘んじている人も、牛のお尻でいることをやめ、鶏の頭になる覚悟が必要になるタイミングがいつか来るかもしれません。
主体性について、あくまで属人的なスタンスではなく「慣れの問題」と考えることもできます。そうだとしたら、主体性を養うためには練習あるのみ。家族や友人との会話や職場でのミーティングなど、普段から意識して自分の意見を表明するようにしましょう。
日本の学校において授業とは「先生の話を聞くもの」というイメージがありますが、欧米では授業中に「積極的に発言をすること」「自分の意見を言うこと」に重きが置かれ、自主的な発言や行動が授業に貢献していると評価されるといいます。教育や文化の差もありますが、日本人にとっても見習うべきところがあるはずです。
多くの仕事はリレーのバトンタッチのように人から人へと手渡され、やがて商品やサービスとして人々のもとへと届けられます。どんな形であれ、自分が関わった仕事が最終的にどのような形になったのかについて「まったく興味がない」という人は少ないのではないでしょうか?
「すごく評判が良かった」「数字が上がったよ!」などと言われればうれしくなり、逆に結果が良くなかったと聞けば落ち込むもの。そんなふうに思うのは、その仕事に時間や神経を注ぎ込んできたという証。フィードバックを受けることで自分自身の内にある情熱に気づき、モチベーションも刺激されます。
「指示待ち人間」は個人の資質ややる気の問題ではなく、組織や環境のつくり方に原因がある場合もあるでしょう。個人にばかり責任を押しつけるのではなく、組織としても「どうすれば社員(学生)が自発的に動けるようになるか?」をしっかりと考える必要があります。
まだ仕事や環境に慣れていない新人や若手に「自分で考えて動いて」というのは、自律を促しているのではなくただの放任です。全体的なビジョンやゴールを共有しないまま、表面的な細々とした作業だけを押し付けて「自分で考えて」というのは、組織側の怠慢ともいえます。
近年、組織においてのパーパス(企業や個人などが存在する意義)を明確にする重要性が叫ばれるようになりました。組織に所属する人々がそれぞれの立場で「自分はなぜこの仕事をやるのか?」「どのような価値を生み出すための仕事なのか」などの問いに対する答えを内在化して取り込んでおくと、組織の規模に関わらず、どのような状況でも向かうべき方向を見失わずに済みます。
すべての人が、仕事こそ人生を捧げる対象や自己実現の方法と考えているわけではありません。組織側が個人の成果をきちんと評価して、しかるべきフィードバックを行うことで、初めて「自発的に動く人材」を育てることができます。
モチベーションには報酬や昇進、評価などの外発的動機づけと「自分は必要とされている」「ここにいれば成長できる」などの内から自然と湧き上がる内発的動機づけの2種類があります。モチベーション管理の本質は、いかに後者にあたる意欲ややる気を引き出せるかにかかっています。
社員に「自分で考えて動いてほしい」と言いつつ、いざ動くと上司に「なんで勝手なことをしたんだ」と怒られる。矛盾しかない話ですが、実際にこのような組織は少なくありません。「リスクを取っても新しいことを始めよう」と言っておきながら、ミスや失敗を理由に評価を下げ、過剰に責任を追求することを続けていては、そのうち社員は「言われた通りやった」と言い訳で自分を守ろうとするでしょう。
成長する組織は現場にある程度の判断をまかせ、失敗も含めて挑戦を認める文化があるもの。自律的に動くことがリスクになる組織こそが「指示待ち人間」をつくり出しているとも言えるのです。
ここまで「指示待ち人間」のあまり好ましくない面や改善方法をメインにお伝えしてきましたが「指示待ち」だからこそ能力や発揮できる環境もあります。どのような仕事が向いているのでしょうか?
工場のライン作業やデータ入力作業は定型的な作業や決まった手順があり、ルールやマニュアルに沿った対応が求められます。そのような現場では個人の創意工夫よりも「指示通りに動くこと」が何よりも大切です。同じ作業を繰り返すことが苦にならないタイプの人には向いている仕事といえます。
誰かのサポートやアシスタント的な役割を担う仕事では、その対象の指示を正確に受け取り、すみやかに実行することが求められます。ただし、秘書職などでは相手の次の指示を想像して先回りしておく姿勢も求められますから、ただの「指示待ち」とは少し違うかもしれません。
コールセンターには日々さまざまな問い合わせが入ります。多くの企業では個人のレベルに左右されることなく同じクオリティの対応ができる仕組みとして、詳細なマニュアルやスクリプトがあり、それに沿った対応が求められます。そのような現場ではマニュアル通りに仕事をこなせる人が重宝されます。
毎日決まった作業を繰り返すことが苦にならない人は、データ処理や在庫管理、定期的な報告書の作成などルーティンワークがメインの仕事も向いています。日々同じ業務を繰り返せば、確実に業務スピードや正確性が上がります。ルーティンワークがあまり得意でない人も少なくありませんから、長く続けていれば数年後には職場で欠かすことのできない人物になっているかもしれません。
システム管理や設備の保守管理は多くの人の仕事や生活にかかわる重要な業務です。小さな異常や違和感にすばやく気がつき、マニュアルやルールにしたがって正確な対応をすることが求められますから、そこでは「指示通りに動ける」というのはひとつの能力です。
良くない意味で使われることの多い「指示待ち人間」ですが、さまざまな要因からそのスタンスに落ち着いてしまった人がいること、そして問題ある環境が「指示待ち人間」をつくる可能性があることをおわかりいただけたでしょうか。
新しい環境に飛び込んだ際、子供も大人もまずは「その場のルール」を誰かに教えてもらわなければなりませんが、どこかのタイミングでその状態を脱し、自分の頭で考え行動する必要が出てきます。他人頼りの生き方は一時的にはラクに感じられるかもしれませんが、その姿勢を長く続けても成長にはつながらないということを覚えておきたいものです。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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