2025年02月17日
親しい人に裏切られたり、心が傷つく体験をしたり――。学校や職場などの集団生活に身を置いていれば、誰でもふとした拍子に人間不信に陥る可能性があります。人間不信の原因や対処法について考えてみましょう。
人間不信とは、何らかの原因により他人を信じられなくなる心の状態です。人間関係でいざこざを経験して厭世(えんせい)的な態度が強まっているケースもあります。
多くの場合は社会生活を送れないほど重度ではなく一時的な状態であることも少なくありませんが、コミュニケーションにおいて相手の言葉や行動を疑い、常に「この人は本当のことを言っているのだろうか?」と緊張状態が続くのはつらいものです。
臨床心理士の玉井仁さんは、個人の心のクセや行動パターンについて解説した著書『私、合ってますよね?しちゃう、できない、やめられないの正体』の中で、誰のことも信じられない人の特性を「いつも力が抜けないさん」と名付け、わかりやすく解説しています。
そのような人について心理的な視点から「不信感が強くなりやすい人は、『まいっか』という心のクッションが薄いので、ジェットコースターのような激しい感情の変化に振り回され気味になる」と伝えています。
出典:『私、合ってますよね? しちゃう、できない、やめられないの正体』
このように信頼と不信は固定された状態ではなく、ふとした拍子に揺れ動くものであり、そのバランスを一定に維持するのは簡単ではないことがわかります。
人間不信の原因やきっかけは人それぞれですが、過去に嫌な思いをした記憶やトラウマが原因で人間不信となることが多いようです。
親しい相手であるほど、その裏切りや嘘のダメージは大きくなります。その相手が親友や恋人など親密な関係であった場合はなおさらです。相手を信頼していた分、普段から自分の弱い部分や無防備な状態をさらしていたわけですから、心の奥の柔らかいところが深く傷つきます。
そんな状態では、相手から離れたり、環境に変化があったとしても「また裏切られるのではないか」と警戒心を強め、自分を守ろうと肩に力が入ってしまうのは無理もありません。一対一の関係だけでなく、集団からのいじめや仲間外れ、差別などを受けた経験も他人を信じることのハードルを上げます。
問題のある家庭では、子供がたとえ親や兄弟であっても心を許せないような不安定な環境に置かれる場合があります。特に保護者との関係は当事者の性格や考え方にも大きな影響を及ぼします。
乳児期の子供と保護者との安定した関わりは「基本的信頼」と呼ばれ、その後の人生においての信頼感の土台となる大切なものです。「自分の欲求は受け入れられる」と認識することで「この世界は安全でなかなか心地いい」という感覚が得られるのです。この土台をうまく築くことができていないと、大人になっても「人を信じられない」という状態が続くことになります。
長い人生の中では家族や友人、配偶者や恋人など、親しい関係性の相手と別れざるを得ないタイミングがあります。お互いに納得して判を押す離婚のような別れもありますし、喧嘩別れや病気による死別など突然の別れもあるでしょう。
頭では理解しているつもりでも、大切に思う相手や長く共に暮らした相手を失うと、まるで自分の体の一部を失ったかのように感じて無気力になり、生きる目的を見失ってしまうことがあります。そんな中で「もうこんなつらい思いはしたくない」「だから誰も信じたくない」という気持ちになるのも、また自然な心の動きなのです。
「人が信じられない」という気持ちが強い場合、行動や態度にはどのように表れるのでしょうか?
他人の言動が素直に受け入れられず「何か裏があるのではないか?」と勘繰りがちになります。人とリラックスして向き合うのではなく、心も身体も緊張して「こいつには騙されないぞ」と力が入っている状態です。
そんな姿勢は言葉にしなくても不思議と相手にも伝わるものです。敵意とまでは言えなくも、目の前の人に疑いを向けられてうれしく感じる人はいませんよね。
チャールズ・ディケンズの小説「クリスマス・キャロル」に登場する強欲で人間不信を募らせた主人公はクリスマスの精霊の導きによって心を入れ替えることができました。しかし、現実ではそのような姿勢を続けていては、いつか周りから誰も人がいなくなってしまうでしょう。
新しい出会いや人間関係に消極的になり、深い付き合いを避けるようになります。仕事や学校などで最低限のコミュニケーションは行うものの、他人に対して心を開くことが難しく、そのような関係を求められた場合は相手を避けたり、突然連絡を絶ったりしてしまいます。
現在の自分の状態を説明しても「どうせわかってもらえないだろう」と考え、人のつながりを諦めているため、言葉で伝えようという気持ちにもなれないのです。そのため世間話やちょっとした雑談であっても、過剰に秘密主義で自分のことをあまり話したがりません。
人間不信に陥ると物事のネガティブな面ばかりが気になるようになります。
例えばかつての同級生が何かの分野で成功して賞賛を受けたとして、普通に考えればそれはその人の努力や成果によるものであり、他の人に関係はありません。中には元同級生の活躍を誇りに思う人もいるでしょう。
しかしながら、人間不信の渦中にいると他人の成功を素直に称えることができず、なぜか「できていない自分」が責められているかのように感じてしまうのです。そのような意味では、知らない相手のキラキラした日常の情報が次々と更新されるSNSのようなメディアにどっぷり浸かることは、場合によっては人間不信をさらに深めることになりかねません。
それでは人間不信を改善するためには、どのような方法があるのでしょうか。
前述の玉井仁さんは、他人や自分を信じられないという人に向けて「小さな信頼」から始めることを提案しています。
(前掲書)「『信頼することは難しい』という人たちがいます。そんなとき私は、『最初から大きな信頼を目指さずに、小さい信頼を積み上げてみよう』という話をします。(~中略~)
何らかのきっかけで人間不信に陥っている状態は、まだ大きなショックから回復している途中です。骨折が治ったばかりの状態でフルマラソンが走れないように、最初から「大きな信頼」を目指す必要はないのです。
玉井さんは「誰しも人のことを信頼できない自分は嫌なものです」と述べながら、逆説的に「それはひっくり返すと、『本当は自分を信頼したい』『誰かを信頼できる自分になりたい』ということでもあります」とも語っています。
相手の「いいところ」に目を向けることも、再び他人を信頼して、人とつながるための足がかりとして助けになります。
(前掲書)
「人を信じられない」と感じるようになった時期やきっかけについてもう一度、考えてみましょう。
心の蓋を開けるように感じるかもしれませんから、ある程度の気持ちの余裕があるタイミングがおすすめです。そうすることで、自分がどのような場面で不信感が強まるのか(弱まるのか)が明確になり、その後の対処がしやすくなります。
玉井さんは「人は対人関係を深めていく中で、相手の良い面のみならず、嫌な面も見えてきてしまうものです」と伝えています。傷ついたからといって、ただ心を閉ざしてしまうのではなく、自らの“心のクッション”をできるだけ柔らかく保とうという働きかけも必要です。
「嫌な面がひとつでもあるから『もう嫌いだ』とならずに、相手からすると自分にも同様に嫌な面があるのだろうと自覚しつつ、お互いに理解を深め、お互いを許し合えるような関係を深めていけるといいですね」
(前掲書)
信頼できる相手に話を聞いてもらうだけでも、少し心が落ち着くものです。場合によっては家族や友人でなく、心理カウンセラーなどの専門家のサポートを受けるのもいいでしょう。自分の中で整理がつかないことでも、他者とのやり取りの中でクリアになっていくことがあります。
全面的に人を信頼するのが難しくても「この人は信じられる」という相手を見つけて、「ここでは自分らしくいられる」などの居場所を持つことは大切です。信頼できる人と時間をかけて関係を築くことで、「人は必ずしも裏切るわけではない」と感じられるでしょう。
人間関係や信頼は時間をかけて徐々に積み上げていくものですから、他者に対して求めるだけではなく、自分自身も「小さな約束を守る」「感謝の気持ちを伝えるなど」の誠実な対応を心がけてみましょう。そのような積み重ねにより、同時に「自分への信頼」を育てることもできるのです。
何らかのきっかけで人間不信に陥ることは少なくありません。ある意味、人と人が深い関わる中では避けられないことであり、それだけ真剣に相手に向き合っている証拠ともいえます。
多くの場合は時間が解決してくれますが、「人を信じられない」という状態から自分自身で抜け出すことが難しく、さらに長期にわたる場合は、うつ病の予兆などの可能性が隠れているケースがありますので、早めに医療機関や専門家の意見を求めましょう。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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