2025年02月07日
他人の持っているものやステータスが気になる、ついつい自分と比べてしまう――。
手元のスマホでニュースサイトやSNSを開くと、他人の情報が大量に流れ込んできます。誰かのキラキラした日常を覗き見るのは楽しいものですが、場合によっては自分と比べたり、人の様子ばかりが気になったりして、気持ちが落ち込んでしまうことも少なくありません。
他人のことがやたらと気になる人がいるのと同じように、自分以外の人に対してあまり興味を抱かないタイプの人々も一定数存在します。
「人に興味がない」とひと言で表現するとAIやロボットのように機械的でドライな印象を持ちますが、その程度や原因も人によって異なりますから、ひとくくりに「ドライな人」や「冷たい人」と考えるのは少しばかり早計かもしれません。
他人への無関心を貫くことで「人のことが気になって仕方がない」という悩みからは離れられますが、社会の中で生きる以上は職場や学校、地域コミュニティなどの集団生活において他者への配慮や思いやりは欠かせません。実際、他人に興味がないタイプの人は、その独特な感覚で集団に馴染めず浮いてしまうことも少なくありません。
家庭やクラスメイトのような小さな集団だけでなく、人間関係において友人や恋愛関係のような個別の付き合いでも相手への配慮やちょっとしたサービス精神は必要不可欠です。
特に恋愛では付き合いが長くなるほどに相手との一体感が高まり、精神的な距離が近くなりがちなため、ちょっとした諍いや対応ミスでも相手に「この人は私に興味がないのではないか」と不信感や不満を感じさせてしまうことも少なくありません。
まずは、他人に興味がない人が持つ特徴についてみていきましょう。
周囲の人にあまり興味がないため、あまり自分から人に話しかけることはありません。
仕事に必要な会話をするのは苦になりませんが、プライベートで誰かから話しかけられても、反応が薄く、受け取ったボールを返すこともしないので、会話が一往復で終わってしまうことも少なくありません。
会話は一方の努力ではなく、双方の働きかけによって成り立つものですから、片方がそのような態度でいたら続かないのは当たり前のことです。そのままでは人間関係を広げたり、深めたりするのは難しいでしょう。
殺人事件の多くは加害者と被害者が親族関係であることが示すように、日常的な悩みの多くは人間関係につながっています。一方、他人に「興味がない」ということは、他人に「影響されない」ということでもあります。そのような人はある意味、気持ちや感情が安定していることが多いようです。
人に興味がないので、誰かのためにわざわざ怒ったり必要以上に干渉することもありません。そのため、人によっては周囲から「穏やかで優しい人」という印象を持たれる場合があります。
気の置けない仲間を集まったり、集団でワイワイと過ごすのが好きな人たちもいますが、他人に興味がない人はそのような時間よりも「ひとりの時間」を大切にします。ひとりでいることは決して孤独で寂しい時間ではなく、誰にも邪魔されることのなく充実した時間と考えているからです。
それでは、他人に興味がない人の考えていることやその理由についても考えてみましょう。
もともと周囲に対しての関心が薄い性質なのかもしれませんし、過去に何かのきっかけがあって、他人に期待することをやめた人なのかもしれません。「こうしてほしい」という自己主張はアサーションともいい、お互いの意見を尊重しながらも自分の意見をきちんと伝える大切な自己表現です。
人は異なる意見を持つからこそお互いに協力したり、それぞれの意見を落とし込む折衷案を探したりするものですが、他人に興味がない人は「人に期待しない」という態度で相手とのコミュニケーションを拒否しているようにも見えます。
本人に他人を拒否しているつもりはなく、自分のことで一杯いっぱいで、他人に興味を持つ気持ちの余裕がない場合もあります。
多忙であったり、過剰なストレスを抱えていたりすると視野が狭くなります。そのような状況に置かれたら、他人に対する興味が薄れるのは仕方がないことです。情報面でも感情面でもすでにキャパオーバーなわけですから、新たに取り入れるものを減らそうとするのは自分を守ろうとする「自然な心の働き」とも言えるのです。
まったく他人に興味がないわけではなく、SNSやオンラインゲームなどのつながりのみで心が満たされたように感じ、現実世界での人間関係やコミュニケーションに積極的になれない場合もあるかもしれません。
匿名性が保たれたオンラインの世界では、リアルでの人間関係よりも趣味趣向が合う相手を見つけられたり、心の内を素直に打ち明けたりすることができる側面もあるかもしれませんが、バーチャルな関係だけに偏るのは健全ではありません。両者のバランスを意識してどちらも充実させていくことが大切です。
近年、“繊細さん”という呼び名で知られるようになったHSP(ハイリ―・センシティブ・パーソン)の傾向を持つ人のなかには、人と一緒にいると気を使い過ぎて疲れてしまうため、他人と関わりたくないという人もいます。
他にも他者からの拒絶を恐れて人との関わりを極端に避ける「回避性パーソナリティー障害」や、他者との感情的な絆や愛着を持たない「スキゾイドパーソナリティ障害」というものもあります。
誰に相談したらよいか分からないという方は、以下の厚生労働省の相談窓口を利用してみましょう。 https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/ (働く人のメンタルヘルス·ポータルサイト「こころの耳」)
人によっては、他人に興味がないことがその人の強みになることも少なくありません。
他人に興味がない人は、人が集まる場所で発生する複雑な人間関係に巻き込まれにくいと言えるでしょう。むやみに周囲の人たち深い関係を築こうとしないため、嫉妬やえこひいきなどの感情的なトラブルにかかわる機会はおろか、「周りの人に嫌われたらどうしよう」と思い悩む必要もありません。
ある程度、「あの人はああいう人だから」という立ち位置を確立してしまえば、職場や学校などの集団の中にいても気楽でストレスフリーに過ごせます。
自分の目の前に今やるべきことがあるにも関わらず、他人の取り組みのレベルや進行具合が気になって、そのことに身が入らないという状況は珍しくありません。しかし、他人に興味がないタイプの人は、周囲の雰囲気に影響されることなく自分のペースで物事を進めることができます。その結果、集中して物事に取り組むことができるでしょう。
また、必要以上に他者に依存や執着をしたり、過度な期待をすることもないので、他人の対応に失望したり心が乱されることも少ないかもしれません。
周囲に影響されにくいということは、他人の評価に左右されないということでもあります。そのため、自分の取り組みについて批判を受けたり、逆境に置かれたりしても「自分がやりたいことをやる」という信念を持って突き進むことができます。
他者からの評価や賞賛に頼らず、自分自身の衝動や知的好奇心をガソリンにして長く走り続けることができるため、継続的にひとつの学びや表現を深めるようとする研究者やアーティストのような仕事に向いています。
強みがある一方で弱みとなる面も知っておきましょう。
人と人が出会ってすぐのタイミングでは、相手がどういう人なのか、どのような趣味趣向を持っているのか――。それぞれが相手に対して興味関心を持つことでお互いの仲を深めていこうとするところがあります。
逆に言えば、お互いに相手に興味を持てないのであれば、それ以上その人間関係は深まりません。職場ではその程度の関係や距離感でも業務は回るかもしれませんが、希薄な人間関係では信頼関係を築きにくいケースもあるでしょう。
そこまで近しくない人物から、思いもがけない助言やアイデアがもらえることは少なくありません。当事者ではないからこそ気付くことのできる魅力や課題は必ずあるものです。
いつもと違う道を歩いてみる、いつもと違うメニューを注文してみるなどの行動は気分転換になるだけでなく、メンタルを安定させる効果もありますし、ときには思い切って違うグループの会話に飛び込んでみるような行動も必要かもしれません。
ピアニストは、1日ピアノに触れない日があるだけで勘を取り戻すのに「3日はかかる」と言われています。頭で考えなくても鍵盤が叩けるレベルで音楽を身体に叩き込むので、1日離れるだけでも大きなブランクとなるためです。
コミュニケーションにおいても受け身でいることに慣れてしまうと、会話する力は確実に落ちていきます。筋トレをやめれば筋肉がたちまち失われていくのと同じことです。ビジネスで交渉するための会話や人前で話すテクニックなどは、ある種のスキルですから「磨き続ける」という姿勢は忘れずにいたいものです。
いくら他人に興味がないからといって、そのような自分を社会にそのまま受け入れてもらおうと考えるのは大人の態度とは言えません。
本人にそのつもりがなくても「人に興味がない」ということを攻撃と受け取る人も少なくありませんから、自分の評価を下げたり無用なトラブルを避けるためにも、最低限のルールや振る舞いについては意識しておきたいものです。
挨拶はコミュニケーションの基本です。普段からきちんと挨拶をすることで少なくとも悪い印象は与えずに済みます。日常的に挨拶を交わす相手であれば「すごく親しいわけではない」けれど「お互いに敵意は持っていない」という安定した関係をキープすることができます。仕事関係や近所づきあいであれば、その程度の距離感で十分です。
他人に興味がない人にとっての最も快適な環境は「他人に干渉されない」ことでしょう。それを叶えるためにも必要最低限のコミュニケーションは欠かさないほうがいいのです。
英語学者である渡部昇一さんと英文学者の中山理さんが中国古典「荘子」について語り合った『荘子に学ぶ明鏡止水のこころ』は難解な古典を親しむ入門書としても手に取りやすい対談集です。
その中で渡部昇一さんは人間関係における“傾聴”の効果についても語っています。
出典:「荘子に学ぶ明鏡止水のこころ」
この話に出てきた人物が、実際に相手の話にどれくらい興味を持っていたかは問題ではありません。大切なのは、しゃべった人が「心から満足した」という事実です。ある意味、相手の話を聞くポーズをとるだけで印象を上げられるのですから、どんな人であっても試してみて損はないはずです。
かつて、相手を褒める言葉のテクニックとして「さしすせそ」(さすが/知りませんでした/すごい/センスがいいですね/そうなんですか)がもてはやされた時代もありました。
ここまで露骨に相手を持ち上げなくても、ほどよいタイミングであいづちを入れたり、相手の目を見ながらうなづくだけでも「しっかりと話を聞いてもらっている」と感じるものです。
日本人は他国の人々に比べて、あいづちの回数が多いと言われます。「うんうん」とうなずきながら話を聞く姿に戸惑う外国の方もいるようですが、一方で適度なリアクションを入れながら聞くことで話し手側が安心して話せるという効果もあります。そのときどきの会話の相手や場所に合わせたリアクションを意識したいものです。
他の人があまり目に止めないような小さな変化や問題に気づき、それを口に出して相手に伝えてみるのも効果的です。ここぞという場面で必要な声かけや指摘ができると、周囲に「あの人はああ見えて実は周囲を気にかけている」とポジティブな印象を与えることができます。
一度そのような印象を持ってもらえると、その後は少しくらいドライな態度であっても大目に見てもらえるものです。見た目などに言及することは避け、その人の努力やセンスの良さなど内面に関わる事柄についてコメントするといいでしょう。
少し話は広がりますが、社会における常識や世間の評価などからあえて離れることで人間性が深まることもあります。
前述の『荘子に学ぶ明鏡止水のこころ』のなかで「至人(しじん)に己なく、神人(しんじん)に功なし、聖人に名なし」という一説について語った英文学者の中山理さんの言葉を抜粋して紹介します。
出典:「荘子に学ぶ明鏡止水のこころ」
「名誉」や「名声」などが象徴する世間の評価は、多くの人にとってある種の目指すべき到達点ですが、世俗的な価値観から離れて独自の学びを極めようとする生き方もまた尊重されなければなりません。そんなとき、他人に興味がないという個人の特性をうまく活かせることもあるはずです。
他人に興味がないという特性は必ずしも悪いことばかりではありません。場合によっては、SNSで会ったことのない他人の情報を見て落ちつかない気分が続くより、よっぽど健全とも言えます。
それと同時にどんな人もひとりでは生きていけないことを忘れないようにしたいものです。周囲の人々への敬意と思いやりの心を忘れずにいれば、お互いに“つかず離れず”の気持ちのいい人間関係が築けるはずです。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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