2023年10月20日
「最近、ちょっとしたことでイライラしてしまう」
「いつも何か不安な気持ちが残っている」
心当たりがあるとしたら、「共感疲労」になっている可能性があります。
思いやりや共感力のある人ほど陥りやすいといわれる共感疲労。なぜ、そうなってしまうのか。どうすれば解消できるのか。詳しく見ていきましょう。
共感疲労とは、つらい状況に置かれた他人の気持ちに過度に共感することで、自分自身の心が疲れてしまい、ストレスを感じることをいいます。
これは医療や福祉などの現場で働く人に起きやすいといわれてきましたが、昨今はSNSをはじめとするソーシャルメディアが普及し、ショッキングな事件や凄惨な事故の映像を目にする機会が増えたことで、医療・福祉に携わる人以外でも共感疲労に悩む人が増えています。
そのストレスから、ちょっとしたことでイライラする、無気力になるなどの精神症状のほか、眠りが浅くなる、食欲の不振、慢性的な疲労感といった身体症状が現れることもあるといいます。
なぜ、そうなってしまうのか――原因となる出来事は、日常のこんな場面にも潜んでいるようです。
共感疲労が広く注目されるきっかけになったのが、2001年9月に米国で発生した同時多発テロ。ハイジャックされた航空機がビルに衝突するというショッキングなニュース映像がテレビで繰り返し放映されたことで、精神的な不調を訴える人が現れたといわれます。
日本では東日本大震災のとき、津波などの被災地の映像を目にして心身に不調をきたす人が相次ぎました。最近では、ロシアによるウクライナ侵攻や海外で起こった雑踏事故などの映像に触れて、気分の落ち込みを訴えるSNS投稿が増えているようです。
家族や友人などの身近な人の不幸をきっかけとして、共感疲労が起こる場合もあります。
「自分にももっとできることがあったのでは……」という思い、自分だけ平穏な生活を送れていることへの後ろめたさなどから、自分を過度に責め、気持ちがふさいでしまうといったケースが少なくないとされます。
共感疲労の原因は、日常生活の中で誰もが経験し得ることですが、同じようなことを経験しても「共感疲労を起こしやすい人」と「特に何も感じない人」がいるようです。
一般的には、以下のような傾向の人が共感疲労を起こしやすい人といわれます。
感受性とは「外界からの刺激を感じ取り、心で受け止める能力」を指します。他人の心の痛みや喜びを我が身のことのように感じて、泣いたり笑ったりできる人は、「感受性が強い人」といえるでしょう。
それは「人間味がある人」「心が温かい人」というふうにポジティブに捉えることもできますが、感受性が強過ぎると、他人のつらい気持ちに共感するあまり、自分自身の仕事や家庭生活に支障をきたすほどのストレスに発展してしまうことがあるようです。
悲惨な境遇、理不尽な状況に置かれている人を見たときに「自分が何とかしてあげなければ!」という思いを抱くことができる人は、すばらしい人間力の持ち主といえるでしょう。
しかしこうした使命感から、自分自身の許容量を超えて心身をはたらかせてしまうと、共感疲労につながるようです。医療従事者や介護スタッフ、カウンセラーなど、他人の支援やケアに使命感を持って取り組んでいる人が共感疲労を生じやすいといわれるゆえんです。
未知の事柄に対して人一倍の興味を抱く「好奇心の旺盛な人」は、刺激的な映像や情報にも、みずから進んでアクセスしてしまいがちです。
好奇心に駆られてさまざまな情報を集め過ぎた結果、自分でも気づかないうちに心の疲労を蓄積させて、共感疲労を生じていくケースもあります。
それでは、ひとたび生じてしまった共感疲労は、どうすれば解消できるのでしょうか。主な対処法をご紹介します。
まずは「共感疲労を引き起こす原因となった映像や情報」に対して、それ以上触れずに済む環境をつくることから始めましょう。
そのためには、スマートフォンやパソコンに触る機会を減らしたり、「インターネットにアクセスしない時間」「テレビを見ない時間」などを設定したりして、SNSをはじめとするソーシャルメディアから距離を置いてみることが有効です。
体の中から老廃物や毒素を取り除く「デトックス」のように、自分の生活からデジタルデバイスを一時的に取り除くことで「共感疲労のもとになる情報との接触」を減らすのです。新たな刺激がなくなれば、すでに生じてしまった疲労感も時間の経過とともに自然と癒えていくことでしょう。
仕事や人間関係の都合上、どうしても十分なデジタルデトックスができない場合や、自然治癒を待つことができないほどつらい場合は、その気持ちを身近な誰かに聞いてもらうという方法もあります。
何を見て、どんな気持ちになり、今はどんなことが苦しいのか。自分の内に押し込めていた心の声に耳を傾けてもらうだけでも、心が軽くなる場合があります。また、第三者的な立場から冷静な意見をもらうことで「考え過ぎ、のめり込み過ぎていた自分」に気づくことができれば、心の安定を取り戻すきっかけにもなるでしょう。
共感疲労とは、自分以外の誰かの苦しみを、まるで我がことのように感じ過ぎてしまうために起こるものです。他者の思いに共感できるというのは「思いやり」にも通じる大切な能力ですが、それが過剰にはたらき過ぎないように、自分の感情をうまくコントロールする必要があります。 自分と相手は別々の人間。お互いを認め合い、尊重しつつも、「過度なもたれ合い」は禁物です。他人の負の感情につい共感し過ぎてしまう人は、意図的に「自分を客観視する習慣」を取り入れ、自分と相手との間に「適度な距離」が取れているかどうかをチェックしてみましょう。
自分以外の誰かに心を寄せ、共感し、配慮すること――それは人間関係を豊かにする上で欠かすことができない、大切な能力です。その力を「一時的に」「過度に」はたらかせるのではなく、生涯を通じて持続的に、かつ適切に発揮していくためには、自分の心身の状態を整えておく必要があります。
「共感する力」を、自分を苦しめる方向にはたらかせるのではなく、喜びの多い人生と豊かな人間関係をつくり出すために役立てていきましょう。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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