2024年06月27日
すべての人と仲良く、そして楽しく。お互いに手を取り合って生きるのが理想の人間関係――ではありますが、現実はそんなに単純ではありません。
学校や会社などの集団生活においては、相容れない相手がいても、衝突しないよう気をつかいながら円滑な関係を築くことが求められます。嫌いな人をうまくかわしてストレスなく生きるのも、社会で生きるための大切なコミュニケーションスキルといえます。
生きていれば誰にだって、どうしても好きになれない相手のひとりやふたりはいるもの。嫌悪感は生物が生き残るために獲得した自然な反応です。自分にとって危険なものや害となり得るものに近づかず、遠ざけようとする“心のアラーム”でもあります。
できれば一緒に仕事をしたくない、顔を見るのも嫌だ、同じ空気も吸いたくない――など「嫌い」のレベルは相手と自分の関係性によって変化します。そして、許容できる嫌悪感のレベルも人によって異なります。まずは、具体的にどのような理由で人は人を嫌いになるのかについて、考えてみましょう。
お互いの持つ価値観や意見が真逆である場合、相手の考えていることが理解できず、ちょっとしたことですれ違ったり、たびたび衝突したりしてお互いをいがみ合う関係になってしまうことがあります。
「よかれと思って」の善意による行動が押し付けがましく感じられ、苦手意識を抱いてしまうのも、またよくある状況です。片方は気にしておらず、もう片方だけが強い拒否感を抱いているというケースもあるでしょう。
自分と同等のレベルの相手が成功している、自分よりも評価されていると感じると嫉妬心が増悪に変わることがあります。
また、嫉妬心やライバル心は「同族嫌悪」にもつながることも少なくありません。共通点があったり、似たような立場にいたりする相手の言動によってコンプレックスが刺激され、自分の嫌な面を見せつけられるように感じるからです。
特に何かをされたわけではないのにも関わらず、なぜかその人に対して嫌悪感があり、無意識に避けてしまうことがあります。もしかすると、過去のネガティブな経験やそれによるトラウマが原因で、特定のタイプに対して強い嫌悪感を抱いているのかもしれません。
このようなケースでは、その人そのものに向き合う中で、「嫌いな人に似た人」という印象はただの自分の思い込みだったことに気づき、徐々に嫌悪感が消えていきます。
嫌いな相手から離れることができるならば、それがお互いにとって最善ですが、職場や学校で顔を合わせる相手のような場合、すぐに物理的に離れるのは難しいものです。そのようなときは自分の心を守るためにも、「基本的に相手を変えることはできない」と割り切り、自分自身の考え方や相手との接し方を変える必要があります。
私たちは、相手に対して不愉快な思いや嫌な感情を抱くときがあります。そのときの思いや感情をよく考えてみると、自分では気づかないうちに抑え込んでいる自分自身の思いや感情を相手の中に見いだして、相手を批判していることが多いのです。
これを心理学では「投影」といいます。つまり、嫌いだと感じる相手の性格は、実は自分の性格の一面である場合が多いのです。
(中略) 感情的なもつれなどもあり、人間関係で起こる問題は冷静に受け止めることが難しいかもしれません。しかし、問題の原因は相手だけでなく自分にもあるのではないかと考え直してみることで、問題の本当の姿をとらえることができます。
『もっと人間力を高めたくなったら読む本(モラロジー道徳教育財団)』より
目には見えないところに想像力を働かせてみると、少しだけ寛大な気持ちになれます。職場や学校で攻撃的な発言ばかりしている人は、もしかして家庭の問題を抱えているのかもしれません。自己中心的な人の自分勝手な行動は、実は自分を守ろうとする不安感の表れかもしれません。
だからといって、他人に負の感情をぶつけていいわけではありませんが、こちらに気持ちの余裕があれば、相手の都合を想像してみると「嫌い」の感情が収まる場合があります。
こちらが勝手に期待したにも関わらず、期待通りの結果が手に入らなかったとき、なぜだか裏切られたような気分になることがあります。それが繰り返されて相手を嫌いになったのなら、自分自身に問題があるかもしれません。期待することを「諦める」のも選択肢です。
「諦める」の語源は仏教に由来しているとされ「真実をあきらかにみる」ことだといわれます。「期待」は他者が実現することをあてにして、そのときを待っている状態を意味します。
他人に対して期待しすぎた自分を省み、希望が叶わないという現状を受け入れることができれば、おのずと解決策も見えてくることでしょう。
自分の心をすり減らしてまで嫌いな相手と関わる必要はありません。顔を合わせるたびにストレスがたまるのなら、できる限り接触の機会を減らす方法を考えましょう。
もしも気持ちに余裕があるのなら、逆に嫌いな人の懐にあえて飛び込んでみるのも問題解決の大きなきっかけになります。自分の状況や相手の性格に合った方法を考えてみましょう。
心の負担になる対象と可能な範囲で物理的、心理的にも距離を置きます。その相手と遭遇しそうな場所や時間帯を避ければ、相手に気づかれずに自然と距離を置けるでしょう。連絡をよく取り合う相手であれば、その頻度を徐々に減らしてみてもいいかもしれません。
「嫌い」という気持ちの背景には、お互いが必要以上に近づきすぎて “密”になっている可能性もありますから、感情的にならず冷静に対応できる距離感がどのくらいか、改めて考えてみましょう。
その過程で相手のことを「嫌い」といいながら、現状に甘んじて相手に依存する自分自身の問題に気づくことがあるかもしれません。これを機会に距離感を一度リセットすることで、ニュートラルな関係を取り戻せます。
先ほどと真逆の発想ですが、嫌いな人の懐にあえて飛び込むのもひとつの手です。1対1での対話の機会をつくり、お互いの言い分をじっくりと聞くことで建設的なやり取りが期待できます。
繰り返し見たり、会ったりした相手に自然と好意を持つという「単純接触効果」という心の動きがあります。ただ漫然と苦手意識を持ち続けているよりも、こちらから積極的に心の距離をグイグイ詰めていけば、人間関係におけるイニシアティブ(主導権)も握れます。
また、どのような人でも自分を慕ってくれる相手には親しみを持つものですから、嫌っていた相手の自然体な姿や意外とかわいい一面が発見できるかもしれません。近くで接してみると、相手の背景が見えて、嫌いだと思っていた要素が気にならなくなったりするものです。
先のふたつの方法がとれないのなら、嫌いな相手のことを考えない。気にしない――。これにつきます。ところが、相手が同じフロア内にいるような場合はどうしても目に入ってしまうということもあるでしょう。そのようなときは目の前の仕事や勉強にひたすらに集中することを心がけましょう。
職場であれば個人的な感情はできるだけ抑えて業務に取り組む。学校であれば目の前の勉強や課題に集中する。それで成績が上がれば一石二鳥。人間的に成長して、むしろそのきっかけを作ってくれたと相手に感謝の気持ちが生まれるかもしれません。自分のレベルを上げてしまえば、もう嫌いな相手と同じ土俵で戦う必要もありません。
家族や友達などの第三者に話を聞いてもらうのも悪くはありませんが、言葉で伝えようとすると共感を求める気持ちや興味をひかせたい思いから、事実よりも物事を大げさに伝えて脚色してしまいがちです。
すると、嫌いな相手についての負のイメージを煮詰める結果となり、逆効果になることもあります。気持ちを紙に書き出すやり方で、頭の中を整理してみましょう。
ひとりの状態で机に向かい、紙に「嫌いな人の嫌いなところ」を書き出します。直接被害を被っていることがあるならば、それも一緒に書き出します。
次は、自分がその相手との関係において、これからどうしたいかを考えます。「嫌いな気持ちを解消して、できれば関係を改善したい」でもいいですし、「金輪際、顔を合わせたくない。もう関係を断ち切りたい」でも構いません。今の気持ちと今後の希望を視覚的に並べることで、自分自身を客観的にみられるようになります。
渦中にいるときは、気持ちを口に出して白黒つけたい、相手との関係が破綻してもいいと思うかもしれませんが「嫌い」という感情をあからさまに態度に出すような行為はおすすめできません。気に入らないからといって無視をしたり、相手が見えないところで陰口を言ったりしては、それこそあなた自身が“嫌な人”になってしまいます。
悪評を吹聴したり、周囲の人を巻き込んで大きな問題にしたりするのもおすすめできません。道理に外れた対応はあなた自身の評判を下げます。
多くの人が集まれば、そこに嫌いな人や苦手な人が現れるのは珍しくありません。しかし、自分の感情に振りまわされて、相手に対してあからさまに失礼な態度をとるのは避けたいものです。冷静な対応を心がけながら、自分自身にストレスを溜めない対処法を考えましょう。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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