2025年02月22日
ありのままの自分を認められない、どうしても周りの人と比べてしまう――そのような劣等感に苦しむ人は少なくありません。
毎日のようにネットニュースやSNSを通して、他人の活躍や華やかな生活が目に入ってくる現代では、それが必ずしもリアルではないと(頭では)理解していても他人と自分の比較をやめることは難しく、劣等感の強い人にとっては困難な時代であることは間違いありません。
一方で劣等感はストレスやプレッシャーと同様に、自らを動かすための起爆剤にもなりますから、ほどほどの距離感でうまく付き合えば、自分の性質をうまく活かしながらより良く生きることができます。
劣等感とは、自分が他人よりも劣っている、そんな自分には価値がないと感じる心理状態のことです。過去に失敗した経験や家庭環境が影響しているケースも多く、長年の積み重ねによって自信を失い、「私は人よりも劣っている」「このままの自分では愛されない」と思い込んでしまうのです。
一方、近年耳にすることが増えた自己肯定感とは「ありのままの自分」でいることを肯定する感覚で、幼少期に他者から認められた体験などが土台になっています。
そのような土台は“心のクッション”としても機能しますから、少しくらい想定外のことが起こっても「なんとかなる」「次はきっと大丈夫」と思えるのですが、劣等感が強い人は一度ダメージを受けると、なかなか自力で立ち直ることができません。
日本においては「コンプレックス(劣等感)を抱く」というように、似たような意味合いで使われることの多いふたつの言葉ですが、実はその意味は大きく異なるものです。
劣等感は他人や理想の自分と“実際の自分”を比べることで生じる主観的な感覚ですが、コンプレックスは、もともと精神分析における専門用語であり「複雑な」とか「複合体」という意味を持ちます。
抑圧されながらも無意識のうちに存在し、自分自身では制御しきれない「さまざまな感情の複合体」が普段の行動や日常生活にも影響します。母親を手に入れるために父親を殺したギリシャ神話の登場人物の名前を冠したエディプスコンプレックスなどは聞いたことがある人も多いかもしれません。
それでは、劣等感が強い人に表れやすい特徴をいくつか見てみましょう。
承認欲求は「他者から認められたい」という欲求ですが、劣等感の強い人は自分に自信がないため、他人からの評価によって自らの価値や立ち位置を決めようとします。一方で他人に過剰に気をつかったり、特定の相手に依存してしまったりという極端な行動も目立ちます。
「私はできない」と言いながらも「誰かに認めてほしい」と求めるのは、対立する感情や欲求を同時に抱え込んでいるようなものです。その欲求の満たし方によっては、かえって気持ちが不安定になってしまうこともあるでしょう。
被害者意識の強さも特徴のひとつです。劣等感が強い人は無意識にどこかで「自分ばかりが損をしている」「どれだけ頑張ったところで報われない」という被害者意識や不公平感を抱えています。自らの意思で行動したにも関わらず「これだけ相手に尽くしたのに見返りがない」と他責思考に偏りがちです。
そのようなタイプの人にとって「問題の原因は自分にある」と認めるのは心の負担になりますから、周囲や環境にその責任を押し付けて、心を軽くしようとしているともいえます。
テレビや新聞で大きな功績を上げた人物のニュースを目にするとき、その人物の年齢が気になる人も少なくないでしょう。学生時代は「同い年なのにすごいなぁ」と思ったり、同世代の活躍に焦りを感じたりすることもあったかもしれませんが、年齢を重ねていくうちに徐々にその数字が自分の年齢よりも低いという状況にも慣れていきます。
人生の半ばに差しかかり、現実的な目で自分自身を顧みて「ハングリーでなくなった」と言ってしまえばそれまでですが、それぞれの生活の中で自らがやるべきことに向き合う中で、他人との比較をそれほど重視しなくなったと考えることもできます。
しかしながら、劣等感が強い人はいつも他人軸で生きているため、他人と自分を比べて一喜一憂しがちです。同級生の出世も素直に喜べず、会ったこともない「自分より成功している人」のSNSを見ては落ち込んでしまうのです。
劣等感を持つようになるきっかけはさまざまですが、過去の経験や問題のある環境などが要因となることがあります。
受験や人間関係のトラブルなど、過去の失敗や屈辱的な体験を引きずっている場合もあります。失敗によって自己評価が下がり、新しいことに対しても「また失敗するかもしれない」と後ろ向きになってしまうのです。
学生時代にクラスメイトとあまり気が合わなくても、第一志望に受からなくても、大人はそれで人生が変わってしまうことなどないと知っていますが、問題の渦中でそのように考えるのは難しいものです。
本来、小さな子供には保護者から無条件で受け入れられたという体験が必要です。そのような体験を重ねて、「自分はできる」「(できなかったとしても)ありのままの自分でいいのだ」という自信と温かい感覚を育てていきます。
一方、親や周囲とそのような関わりがなく、いつも兄弟などと比べられたり「あなたはできない」と否定的な言葉をかけられ続けたりすると、「自分はできない人間だ」という思い込みにとらわれてしまいます。
親の過干渉によって自分のことを自分で決められなかった人や「勉強ができるからいい子」などの条件付きの愛情を受けた経験も、その後の考え方や劣等感に大きく影響します。
こちらから求めなくともネットニュースやSNSなどで多くの情報が流れ込んでくる時代。仕事でも家庭でもマルチタスクが求められます。他人と比べることが容易になり、自らの状況によっては自分が“劣っている”ように感じてしまうものです。
実際は幸せの形は決してひとつではなく、誰の人生にだって浮き沈みがあるものですが、人と比較することが癖になってしまうと、自分が持っていないものや足りないことばかりが目に付くようになってしまいます。
自分の内にある劣等感を持ち切れないと感じた場合、完全に手放すことは難しくても、徐々に小さくしていくことは可能です。
臨床心理士の玉井仁さんは著書『私、合ってますよね?しちゃう、できない、やめられないの正体』で、劣等感が強く「私はできない」と思い込むタイプの人に「これでいいのかな?さん」と名前を付けて、そのような自分との向き合い方や対処法について解説しています。
完璧主義が強すぎると、「完璧なもの以外には意味がない」「少しでもできない自分には価値がない」などという極端な思考に陥ってしまいます。周囲から見れば十分やっている(できている)ように見えるのに、足りないところばかりを数えて、自分を冷静に評価することができなくなっているのです。
出典:『私、合ってますよね?しちゃう、できない、やめられないの正体』
劣等感が強い人はその劣等感ゆえ、継続して努力する姿勢はすでに身に付けています。また長所というとスキルや人よりも優れているところを探そうとする人がいますが、穏やかな人間関係の中で思いやりを持って人と接することも立派な長所です。
劣等感が強い人は自信のなさから他者の承認を求め、物事への評価を他人にゆだねようとします。小さな子供が親の顔色をうかがうのは特におかしなことではありませんが、ある程度の年齢になったら、自分自身が積み上げてきたことや成果を“自らで評価すること”が必要になります。
先述の玉井さんも、対等に話せる相手に対して“小さな自己主張”をする練習から始めることを提案しています。
大げさなことでなく「私はこの映画を観たい」「このお店に入りたい」などで構いません。「私は○○がしたい」という希望は受け入れられる――。あるいは希望が通らなかった場合もそれほど問題ではないと知れば、自らの意見を主張することへの苦手意識も徐々にやわらいでいきます。
子供の頃、時間を忘れてしまうくらい夢中になったことはありますか?勉強やスポーツなどの成果がわかりやすいものでなくても「これが好き」ということがあったのではないでしょうか。それは必ずしも誰かから評価してもらうためではなかったはずです。
物事に集中して取り組んでいると、周囲の反応や自分の評価などは気にならなくなるものです。人が何かを極めようとするときに他人との比較をしている余裕はありません。大切なのは「自分との闘い」です。そうやって目の前のことだけに集中する習慣が身に付けば、そのうちに劣等感も薄まっていきます。
「自分にはできない」ではなく、「まずはやってみよう」といったポジティブな言葉を使う習慣を身に付けることを心がけましょう。何気なくつぶやくひと言も、それが習慣になると思考にまで影響を及ぼします。
自分の言葉を一番聞いているのは誰でもない「自分」。物事に対していつも否定から入るのではなく、肯定的な言葉で表現することで自分に対するイメージも徐々に変化していくはずです。
出口が見えないような深い劣等感に悩まされている場合、カウンセリングや心理療法を受けることも有効です。専門家の助けを借りることで、劣等感の原因を見つけて適切に対処することができます。
劣等感が強い人は決して能力が低いわけではありません。それどころか、普段から「今のままではいけない」「私は人一倍、頑張らないと」などと考えて人知れずストイックに努力を重ね、その結果、周囲の人より高いスキルを身に付けていることも少なくありません。
たとえそれが劣等感からの行動であっても、長いスパンで継続して努力できるという勤勉性は誰もが持つものではありません。現状維持で満足せず、常に成長しようとする姿勢は向上心とも重なります。「私は劣等感が強いから……」と悲観せず、その性質を理解してうまく活かす方法を考えることも大切です。
また、人と比べて苦しい気持ちを経験した経験があれば、今まさにそのような状態に陥っている人に寄り添い、その人が欲しい言葉をかけてあげることもできるかもしれません。ネガティブな感情も含め「より多くの感情に触れてきた」という経験は、いつか誰かの役に立つはずです。
自分の劣等感は何が原因なのか、本当は誰から認められたいのか――。先ほどもお伝えしたように、劣等感の根底には家族の問題や育った環境が影響していることも少なくありませんから、時にはその原因と“一旦離れる”という決断も必要です。
また、どんなことにもプラス面とマイナス面があります。劣等感にどっぷり浸かった状態は苦しいものですが、その背景に隠れた「もっとできるようになりたい」「より良くあろう」という前向きな気持ちに目を向け、目の前の取り組みに集中することができれば、劣等感から抜け出す糸口も見えてくるのではないでしょうか?
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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