2025年07月15日
エアロスミスの名曲「ミス・ア・シング」をバックに主人公らが闊歩する映像があまりにも有名な映画「アルマゲドン」。物語の最後では地球に迫りくる隕石を破壊するため、ブルース・ウィルス演じる主人公がみずからを犠牲にして爆弾のボタンを押して人類と地球を救う。1998年の公開当時、自己犠牲の極みともいえる結末が大きな話題となりました。
このようにフィクションにおいて自己犠牲はドラマチックに描かれがちですが、日々の生活や人間関係での「行き過ぎた自己犠牲」についてはどうでしょうか。今回は自己犠牲型の人の特徴や他人に尽くそうとする人の心理について考えてみます。
自分が欲しいもの(やりたいこと)を他人に譲る、人のために時間や健康を犠牲にする、おのれの感情を抑えてでも相手の欲求を叶える。自己犠牲とは、自分自身を犠牲にして他人や社会のために尽くすことです。その対象は家族や恋人、組織や会社の場合もあるでしょう。
昔から日本では、和を乱さずに場の空気を読むこと、他者を優先することが美徳とされてきました。「出る杭は打たれる」の言葉通り、学校教育や社会生活でも出すぎない態度が求められ、個人の意思を貫くよりもチームや他人のために尽くす人や態度が賞賛されがちです。そのため、多くの日本人には、小さな頃から「誰かのために行動することは素晴らしい」という考え方が無意識に染み付いています。
忠義のために自己を犠牲にすることが美徳とされた武士道の名残(なごり)もあるでしょう。当時の人々の価値観は現代の私たちと異なるため、すべてが間違っているとも言い切れませんが、行き過ぎた自己犠牲ではすべての人を幸せにすることはできません
自分を後回しにして他人を優先することを続けていると、本心を抑え込むのが当たり前になってしまいます。本人は「一生懸命、人に尽くしているつもり」であっても、それでは自分をないがしろにしているのと同じこと。知らず知らずのうちに心が疲れて、満たされない感覚や虚しさを覚えるようになります。
人生をより良く生きる人間学の原則を伝える『まんがでわかる とことん優しい人はうまくいく』では、一方的に人に捧げるような自己犠牲だけで「人は幸せになれない」と説明しています
自己犠牲や自己責任では、なぜ長く続かないのでしょうか。例えば、他人のために働くことが前提の介護や看護の仕事、またはボランティアに関わる人が「自分は無理をして体が壊れても仕方ない。とにかく目の前の人を助けたい」と自己犠牲の心が強すぎるためにバーンアウト(燃え尽き症候群)して心身が疲れ切り、意欲が湧かなくなることが問題視されています。(~中略~)
出典:まんがでわかる、とことん優しい人はうまくいく――いい人で損しない3つの原則
自分を犠牲にして相手を優先することは素晴らしく高尚なように見えます。それが短期間であればいいのですが、何か月、何年と続けば心身に不調をきたします。心が擦り切れるまで人に優しくして、気づいたら自分がダメになっていた。これでは元も子もありません。自分をないがしろにした思いやりは長くは続かないのです。

自己犠牲をともなう行動を選びがちな人には、共通した性格傾向や行動パターンがあります。
良い意味で使われることが多い「責任感」という言葉ですが、場合によっては「周囲の期待に応えよう」とする気持ちが心の負担になることがあります。人から頼まれた仕事を断れない、限界まで頑張ってしまう、他人の問題まで自分の責任のように感じる、などの傾向がある人は注意が必要です。
周囲から「いい人と思われたい」「嫌われたくない」という思いから、無理をしてでも人のために尽くそうとする人は他人からの評価に敏感です。協調性と言えば聞こえがいいですが、自分自身の内なる声を無視した自己犠牲には限界があります。
自分に自信がなかったり、価値がないと感じていたりすると「人の役に立つことで認められたい」「自分の価値はここにしかない」と思い込んでしまいます。
職場などで雑用ばかりを押し付けられているのに断ることをせず「自分には能力がないから、これくらいしかできない」などと考える人も典型です。本人は「いいことをやっている」つもりでも、人の仕事ばかりを引き受けていては自分自身が成長する機会を逃して、ただの「都合のいい人」になってしまいます。
いわゆる「優しい人」にありがちですが、自分と他人の感情や責任の境界線が曖昧な人は、相手の問題をまるで“自分ごと”のように感じてしまう傾向があります。共感性が高い反面、他人の感情に引っ張られがちで、周囲から見るとまるで「面倒ごとにみずから巻き込まれにいっている」ように見えます。
人の頼みを断るのが苦手で、自分の希望よりも他人の都合を優先してしまう人もいます。「ノー」と言うことで相手を傷つけてしまうのではないか、この関係が切れてしまうのではないか、と恐れているのです。冷静に見ればいずれも「もしも~ならば」の仮定でしかなく、相手が離れていったところでそれまでの関係だった、というだけのこと。自分を押し殺してまで相手に合わせる理由にはなりません。
自己犠牲につながる行動の背景には、深層心理に根差した感情や信念が隠れています。その際の心理についても考えてみましょう。
他人に尽くすことで「自分は必要とされている」という実感を得ようとする人は、根底に「愛されたい」「認められたい」という承認欲求を抱えています。少し大げさですが、自己犠牲を払うことで「自分自身の存在価値を証明しようとしている」のです。
このタイプの人は家族や恋人などの近しい関係性の中で共依存になりやすく、関係性が失われた際には自己否定に走りがちです。ある程度の年齢になったら、自分の行動の理由を誰かにゆだねるのではなく「自分で決める」、その結果がどうであれ「自分で引き受ける」という覚悟が必要です。
前掲書
自分の気持ちや感じていることを後回しにするのは、根底に「自分のことは軽視してもいい」という誤った自己イメージが原因の可能性があります。このような自虐的な思考パターンは、徐々にその人の自己肯定感をむしばんでいきます。自分を大切にする感覚をみずから手放してしまっているのです。
子供は本来、保護者から無条件の愛情を受けて育つべき存在ですが、不安定な家庭環境の中で育つと「期待に応えないと愛されない」といつも周囲の大人の顔色をうかがうような子供になります。テストでいい点を取ったから、親の言うことを聞いたからというような「条件付きの愛情」が刷り込まれてしまうのです。幼少期にこのような環境で育った子供たちは、大人になってからもしばしば恋愛や人間関係で困難を抱えがちです。

自分自身の考え方や行動を見直し、健全な自己尊重感を育てるためにはどうすればいいのでしょうか。
人のことを思いやる優しさは素晴らしいことですが、自分を後回しにしてきた人はこれまで目を向けてこなかった分だけ自分の「本当の気持ち」を見失いがちです。まずは自分の感情や欲求の存在を認めることから始めてみてください。
嫉妬やねたみ、怨恨や自分勝手な思いなど、自分のネガティブな部分に気付くこともあるでしょう。ときには「自分にはこんな嫌な一面があったのか」と自己嫌悪に陥るかもしれません。たとえ積極的に表に出すようなものでないとしても、それも「自分の一部分」と受け止めてあげてください。
立場上断れない仕事などは除いて、気持ちよく受けられないお願いごとを引き受ける必要はありません。「自分さえ我慢すればいい」と思うかもしれませんが、本当に必要なときに「イエス!」と言える気力と体力を残しておくためにも、普段から断る練習を積んでおく必要があります。
とっさに言葉が出るかどうか心配な人は、固定の言い回しを覚えておくといいかもしれません。
「あいにく他のことで手一杯で」とか「私より適任の方がいるのでは?」などの遠回しな拒絶表現や、「こちらの作業が終わってからで良ければ」などと相手の譲歩を引き出す言葉も便利です。
犠牲的な行動をやめられないときは、その相手や人間関係から離れるのが一番シンプルな方法です。片方が片方に犠牲を強いる関係や力関係がいびつな繋がりなど、一度固定されてしまった人間関係を変えるのはなかなか難しいもの。そんな場所や人間関係からいったん“離れる”のです。
その後は自分の良いところに目を向けたり、これまでに達成したことを振り返ったりと、まっさらな地面に生えた小さな芽に水をやるように、ゆっくりと「自分を大切に思える感覚」を育てていきましょう。
心理学用語で「自分と他人の境界線」を意味する「バウンダリー」という言葉を聞いたことがありますか?自分と他者の責任や感情を分けて考えると、自分と他人との間に「私は私」「あなたはあなた」という目に見えない境界線を引かれ、自分自身を守ることができます。そのような適切な距離感あるからこそ、お互いが精神的に自立した健全な人間関係を築けるのです。
この境界線は、親子や恋人など親密な関係ほど曖昧になりがちです。他者の問題に踏み込みすぎて、無意識に相手側のバウンダリーを侵害してしまうこともあるでしょう。あなた自身、これからしようとする行動が「自分のため」なのか「相手のため」なのか、よく考えてから行動するようにしましょう。
無自覚な自己犠牲を続けることで他人のために尽くす姿勢が染みついて、「やめたいのにやめられない」「やめる方法がわからない」という人もいるでしょう。その場合はカウンセリングやコーチングなど、第三者の視点でアドバイスを受けると客観的に自分を見られるようになります。
行き過ぎた自己犠牲は問題ですが「自分を後回しにしてまで他人を優先しようとする気持ち」そのものは誰にも責められません。その行動にどんな背景があるにせよ、自己犠牲的な行動をとってしまう人が「優しくて思いやりのある人」であることは間違いないからです。
とはいえ、人に手を差し伸べるためには、まず自分自身が満たされ充実していることが大前提。長年の行動パターンを変えるのは簡単ではありませんが、自分も周囲も幸せを感じられる良いバランスを見つけられるといいですね。

\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ
ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
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