2024年07月18日
職場や学校では一見、エネルギッシュに活動しているように見えるけれど、家に帰るとベッドに突っ伏して、休日は家から一歩も出られない――。
外で気疲れしている分、プライベートでは何をする気も起きないという人は珍しくありませんが、そのような状態がしばらく続く場合はメンタルの不調が原因の可能性があります。
一般的な要因や自分でできる対処法、病院や専門家につながったほうがいいケースについてもご紹介します。
コロナ禍で人の移動が制限された時期がありましたが、近年の研究では人は本能的に「移動」や「探索」をする行為に幸せを感じることが明らかにされています。特に新しい場所に行くなどの活動的な動きをする日ほど、より強く幸せを感じるようです。
一方で「何もしたくない」「ずっと寝ていたい」という気持ちは無力感が漂い、移動や探索とは真逆の方向性にみえます。
「ずっと寝ていたい」は文字通り睡眠を求めているだけでなく、他者を拒絶する心の動きです。自分の内側に閉じこもりたいという感情はどのようなことが要因になっているのでしょうか?
仕事の疲れや人間関係のストレスなど原因はさまざまですが、「何もしたくない」と感じるのは心のエネルギーが枯渇している状態。好きなことを前にしても心が動かない自分に気づいたら要注意です。
適度なストレスやプレッシャーは集中力を高め、普段以上の実力を発揮する後押しになるなどのメリットもありますが、ストレスが解消される前に次のストレスが積み重なるような状態では気持ちが休まりません。
緊張感が長く続くと人は無気力になり、再び動き出す意欲も失われてしまいます。
長時間労働による過労や睡眠不足が要因になることもあります。「ずっと寝ていたい」というのは体が休息を求めているサインです。決まった時間にきちんと休憩をとるなど、意識して体を休ませてください。
6時間睡眠を2週間続けると、脳は酩酊(めいてい)しているのと似たような状態になり、集中力や注意力が低下することが知られています。成人であれば「6時間以上」は眠ることを心がけましょう。
一方で9時間以上の「長すぎる睡眠」は睡眠の質を下げます。休日に平日の睡眠不足を取り戻そうと昼過ぎまで寝てしまうなど「寝だめ」も健康に悪影響を及ぼします。
友人たちとの気取らない集まりでも、ひとりうわの空……。映画を見ても、おいしいものを食べても気持ちが動かないと感じているのなら、モチベーションが落ちている可能性があります。
何かの拍子に突然、心に抱いていた目標ややりがいを失ってしまうと「燃え尽き症候群」のようになることがあります。
定年退職や産休・育休など大きく生活が変わるタイミングで、心のバランスを保てなくなる人も多いようです。
日常生活での人との関わりは心をあたためてくれます。それがお互いに名前も知らないコンビニの客と店員との関係だったとしても、レジの前でひと言、ふた言を交わすだけでも、人とのつながりが感じられるものです。
しかし、気持ちが落ち込むと人と交流するのがおっくうになり、それが高じて「誰も自分のことをわかってくれない」と思い込んでしまいがちです。実際はそうでなくても、ひとりでますます孤独感を募らせてしまうのです。
仕事上のミスや人間関係の問題などきっかけは人それぞれですが、自尊心が傷つけられる出来事を契機に自己批判的な感情が高まることがあります。
そこから、気持ちを切り替えられないまま、ネガティブな感情に足を取られて前に進めなくなってしまうのです。
再び傷つくことを恐れて、無意識に「自分の内にこもれば、もう傷つくことはない」と考えているならば逆効果です。余計に自己嫌悪に陥ってしまう可能性があります。
「何もしたくない」「ずっと寝ていたい」という感覚は心や体からのSOSのサインです。そんな状態ではまず回復することが最優先。無理に動こうとせず、思う存分に休むことが大切です。
ある程度、気力を取り戻した際には徐々に活動を始めると気分転換になり、気持ちが明るくなります。今の自分の状態に合う対処法を考えてみてください。
まずは休息を取ることが最優先。心の声に従い、できる範囲で心と体を休ませてください。十分な睡眠を取ったり、リラックスできる環境に身を置いたりして、少しずつ心と体を回復させましょう。
仕事や学校がある人は、しばらくの間は60%くらいの力でこなすことを心がけます。普段から物事に120%で取り組む人もいるかもしれませんが、それでは身が持ちません。
多くの仕事は一定のクオリティーを確実に継続することが求められます。普段の作業は60%でこなし、「ここぞ」という時に90%を出すくらいの心持ちでいたほうが、仕事にも心にも余裕が生まれるはずです。
ある程度まで回復したら、適度に体を動かすと気持ちがリフレッシュされ、ストレス解消になります。
体を動かしている最中は「頭の中を空っぽにできる」という人もいます。水泳などの有酸素運動は負担が少なく、終わった後にほどよい疲労感が得られてお勧めです。
スポーツが苦手な人は近所を散歩するだけでも構いません。家を出るのもおっくうに感じるなら、家の中を片付けたり、家具の配置を変えたりするなど「模様替え」をしてみてはいかがですか?
家事は意外と全身運動になりますし、部屋が整理されると気持ちもすっきりします。
心が疲れている時はまず小さな目標を立てることから始めてみてください。「成功体験」や「達成感」を重ねることは自分自身への信頼と自信を取り戻す足がかりになります。
達成感を得ると人の脳内ではドーパミンが分泌されます。喜びや楽しさなどのポジティブな感情が生まれ、情報処理能力の向上も期待できます。
ドーパミンにはある種の“中毒性”があり、一度それを知ると、またその刺激を味わいたいとさらなる達成感を求めて努力する――。うまく活用すればモチベーションのキープに役立ちます。
「何もしたくない」という気持ちをひとりで抱え込まず家族や友人に吐き出してみると、解決の糸口が得られることがあります。
人からのアドバイスが素直に受け入れられない精神状態の時もありますが、誰かに心の内を聞いてもらうだけで心が軽くなるものです。自分のことを真摯に思ってくれる人がいると気づくのも大切です。
周囲の人に相談しづらい場合は、あえて普段から身を置くコミュニティーの外にいる人に声をかけてみるのもいいかもしれません。違う立場にいる人の言葉が心に響くこともあります。
趣味や興味のあることに没頭すると気分転換になり、活力を取り戻すきっかけになります。読書や映画鑑賞、美術鑑賞などは体への負担が少なく、心に刺激を与えてくれるのでお勧めです。
特にアートは目の前の作品を見ているつもりが、実は「自分の中をのぞく行為」でもあります。同じ作品でも毎回違う感覚が得られるのはそのためです。
多くの美術館は期間限定の企画展のほか、常設展でコレクションを公開しています。常設展でお気に入りの作家や作品を見つけて、人生の節目に美術館を訪れ、自分自身の「心の動き」を感じる――。これもひとつの心の習慣ではないでしょうか。
アドラー心理学に関する著作を持つ心理カウンセラーでメンタルコーチの長谷静香さんは、自分自身を大切にすることの重要性“ご自愛”について説いています。
著書『周りを優先し過ぎるお疲れママのためのご自愛レッスン』(モラロジー道徳教育財団)は心が疲れた人の背中をそっと押してくれる1冊です。一部を抜粋してお届けします。
長谷さんは、自分の心を満たすことを「心の器(うつわ)」に例えて解説しています。
「揺るぎない自分と揺れ幅のあるしなやかな軸がつくられると、自分の人生の主人公として歩むことができるようになります。そのためにも、まずは“強靭な器をつくること”が何よりも大事なのです。
もしかしたら、今は器にひびが入ったり、欠けたりしているかもしれません。でも、ひびや欠けている部分があったら繕(つくろ)っていけばいいのです。
日本に『金継(きんつ)ぎ』という伝統文化があるように、ひびや欠けは美しく繕うことができます。その金継ぎの柄は、きっとあなただけの人生の彩りとなっていくことでしょう」
さらに、周りの人のためにがんばりすぎてしまう人に対しては、まず「自分自身の心の声を聴く」ことを勧めています。
「あなたに質問です。生まれてからずっと一番近くであなたを応援してくれている人は誰だと思いますか? ご両親、祖父母、ご先祖さまと、いろいろな答えがあると思います。すべて間違いではありません。
しかし、ここで私が答えとしてお伝えしたいのは、あなたが生まれてから一番近くで応援してくれている人、それは『あなた自身』ということ。まずは自分自身を世界で一番大切な人として扱っていただきたいのです。ご自愛ですね!
“大切に扱う”とは、あなた自身があなたの心の声をしっかりと聴き、欲求を満たすこと。世界で一番大切なあなたの欲求を、あなた自身が叶えてあげましょう」
これまでの自分のがんばりを誰よりも理解しているのは自分。そして、そんな自分を励ますことができるのも、またあなた自身なのです。
朝起きたくても起きられない、長期間にわたって気分がふさぎ込む場合はメンタル面に問題がある可能性があります。自分ひとりでどうにかしようと考えず、早めに医療機関や専門家につながることが大切です。
一日中気分が落ち込んでいる、物事に無関心で何をしても楽しくないという場合はうつ病の可能性があります。
睡眠障害や食欲不振などの身体症状もあり、ちょっとしたことですぐに疲れて、横になって休みたくなるのも一般的な症状です。
慢性疲労症候群は極度の疲労が続き、日常生活にも支障をきたす病気です。
これまで健康に過ごしていた人が、ある日突然に原因不明の倦怠感に襲われ、休息をとっても回復せず、その後は微熱や頭痛、筋肉痛、脱力感などをともないます。
睡眠の質が低下すると、早くにベッドに入っても「しっかり眠れていない」と感じて常に疲れている状態になります。ひどくなると日中にも強い眠気があり、社会生活がままならなくなります。
まずは規則正しい生活が大切ですが、重大な疾患が隠れている可能性もありますから、しばらく続く場合は専門医に相談しましょう。
甲状腺が十分なホルモンを生成しないために起こる病気で、全身のさまざまな機能が低下し、おもに疲労感やだるさ、食欲や記憶力の低下をともないます。
「ちょっと疲れているだけ」と見逃されがちですが、血液検査で診断できるため、疑いがある場合は医療機関で検査を受けてください。
現実と非現実の境界があいまいになり、幻覚や妄想、無気力感があらわれる精神疾患です。
不安や恐怖の感情が強く、せっぱ詰まった感じに襲われ、実際には聞こえない声が聞こえるなどの幻聴もみられます。意欲が低下し、感情表現が少なくなるなどの症状も特徴です。
ストレスの多い環境や大きな変化に適応できず、不安感や抑うつ、全身倦怠感などの症状があらわれます。緊張感が高まると動悸がしたり、めまいなどの症状がみられたりすることもあります。
「うつ病の一歩手前」ともいわれ、結婚や転職など生活が大きく変わったタイミングで発症しやすいとされます。
つらいのに誰に相談したらよいか分からないという方は、以下の厚生労働省の相談窓口を利用してみましょう。
https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/(働く人のメンタルヘルス·ポータルサイト「こころの耳」)
「何もしたくない」「ずっと寝ていたい」と感じる自分を怠け者と責める必要はありません。心と体が疲れ切っている状態ですから、まずはそんな状態になるまでがんばった自分を労ってあげましょう。
真面目な人ほどやりがちですが、これからは疲れ切るまで自分を追い詰めるようなことはやめて「ほどほど」を意識するのが大切です。定期的に休暇や趣味の時間をとり、気持ちをリフレッシュして明るい気分で過ごしましょう。
\ この記事の監修者 /
ニューモラル 仕事と生き方ラボ ニューモラルは「New(新しい)」と「Moral(道徳)」の掛け合わせから生まれた言葉です。学校で習った道徳から一歩進み、社会の中で生きる私たち大人が、毎日を心穏やかに、自分らしく生きるために欠かせない「人間力」を高めるための“新しい”考え方、道筋を提供しています。
ニューモラルブックストアでは、よりよい仕事生活、よりよい生き方をめざす、すべての人に役立つ本や雑誌、イベントを各種とりそろえています。あなたの人生に寄りそう1冊がきっと見つかります。
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