2017年10月20日
「おはよう」「行ってらっしゃい」「こんにちは」「お先に失礼します」……私たちは、時と場合に応じたさまざまな挨拶を交わすことで、人間関係を整えています。私たちは日ごろ、一つ一つの挨拶にどのような「心」を乗せて相手に届けているでしょうか。
挨拶はコミュニケーションの第一歩。家庭でも学校でも職場でも、温かな人間関係を築くためには挨拶が不可欠です。しかし、日々の生活の中では、つい、その大切さを見過ごしてしまいがちではないでしょうか。
挨拶の語源は、仏教用語の「一挨一拶(いちあいいっさつ)」。「挨」の字には「押し開く、互いに近づく」という意味があり、「拶」は「迫る、すり寄る」という意味です。つまり挨拶とは、言葉の意味からすると「みずから胸襟を開いて相手の懐に飛び込む」ということです。
私たちは初対面の人に会うとき、相手がどんな人かが分からず、つい身構えることがあるものです。そんなとき、丁寧な挨拶は「私はあなたに敵対する者ではありません」という意思表示になります。欧米などでは、握手や抱擁をすることもありますが、これも「私のこの手は、あなたを傷つけるものではありません」といった友好の意思表示なのです。
マナーや心配りに関する研修等を手がけている、作法家の三枝理枝子さんのお話です。
かつて三枝さんが大手航空会社で客室乗務員になるための訓練をしていたころ、「挨拶は自分から先にするもの」ということを教官から徹底的に教えられたといいます。以来、飛行機を利用するお客様だけでなく、どんなときも、どんな立場であっても、出会ったすべての人に対してこれを実践してきたそうです。その心は、こんなふうに表現されます。
あ …… 明るく
い …… いつも
さ …… 先に
つ ……(ひと言)続けて
三枝さんは「挨拶は、その人がいると存在を認めているからこそ声をかけるもの。挨拶そのものが、相手の存在、価値を認める行為」であるとも述べています。また、挨拶の後に「相手を思いやるひと言」を添えることができれば、なおよいでしょう。
(参考=『空のおもてなしから学んだ世界に誇れる日本人の心くばりの習慣34』中経出版、『リアルな場ですぐに役立つ最上級のマナーBOOK』メディアファクトリー、ほか)
自分の存在を認めてもらえたら、誰でもうれしい気持ちになるものです。たったひと言の声かけの工夫によって、周りの人たちの心が明るくなり、家庭や職場が和やかになるなら、私たちの暮らしもより心豊かなものになるはずです。
挨拶をまったくしない人。心はどうであれ形としての挨拶だけはする人。相手に対する思いやりの心を乗せた挨拶をする人……。その差はわずかのようですが、一日一日と積み重なっていけば、やがて大きな差が生まれます。
「おはよう」という一日の始まりの挨拶から、周囲に喜びを与えることができる人には、きっと温かな人間関係がもたらされるでしょう。それだけではありません。日々、心をプラスにはたらかせることで、その人自身の心が大きく育っていくのです。
自分が挨拶をしたのに、相手が気持ちのよい挨拶を返してくれなかったら、ムッとしたり、むなしい気持ちになったりすることもあるでしょう。
しかし、そんなときも相手を悪く思う必要はありません。その相手も悪気はなく、気分が落ち込んでいたり考え事をしていたりして、こちらの挨拶が聞こえなかっただけかもしれません。返事という「見返り」を期待するのではなく、まずは「自分の心を磨く」という意識を持ったなら、何より自分自身の気持ちが楽になって「次はもっと元気に挨拶をしてみよう」と思えるのではないでしょうか。
例えば大人でも、職場に着いてドアを開け、「おはようございます」と挨拶をするときには“どうぞ今日一日、ここで働くみんなが無事でありますように”とプラスアルファの心を添えてみましょう。
そうしていつも相手を思いやる「祈りの心」を添えていくことで、自分自身の心が豊かになり、知らず知らずのうちに、周囲からも「あの人には話しかけやすいし、何かと物事を頼みやすい」「責任のあることを任せても、きちんとやってくれそうだ」と思われるようになり、だんだんと信用が形づくられていくのではないでしょうか。
(『ニューモラル』535号より)
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