プラス思考を教えられる ~がんばる先生奮闘記~

2学期の期末試験の12月初旬、家に帰ると、普段は迎えになど出てこない家内が家の前で待っていました。どうしたのかと聞くと、隣町の警察署に行って欲しいというのです。
 警察署の受付に行って若い警察官に、「私は高校の教員で、生徒が迷惑をかけたようなので引き取りにきました」と言いました。若い警察官は後にいた上司の警察官に話していました。すると上司の警察官が同情するような顔で「折角、迎えに来てもらいましたが、今日は帰れないと思います。今日の所はお引き取りください」と言うのです。そんな大変なことをしたのかと思いました。しかし、何を言ってもだめだろうと思いましたので、家に帰ってきました。
家に帰るとすぐに校長先生、教頭先生、生徒指導主事の先生に電話をしました。教頭先生は、新聞に出ないように知り合いの記者に言っておくよと言ってくれました。翌日の新聞を見ましたが、その事件については出ていなかったので良かったと思いました。その日の午後、今度は生徒の父親と一緒に警察署に生徒を引き取りに行きました。
 私は県の教育委員会への報告書を作成したり家庭訪問したりで、数日後には、疲労のため学校を休んで寝ていました。その日の夕方、先輩のW先生が突然訪ねて来られて、「疲れて休んでいるのだって?よかったね」というのでした。この先生は何をいうのだ。指導力がないからこういう事件が起こった。学校をやめなければならない、と真剣に考えていた時でした。先生は続けて「この事件も考えようでは生徒と話しあえるし、生徒を見つめられる良い機会だよ。よかったね」と言うのでした。その時の私は、勤めが続けられるか、辞めなければならないか、と自分の事ばかり考えていたのでした。 しかし、先生の言葉に「生徒一人ひとりを見つめる良いチャンスだ」と新しい見方を教えられ、気持ちがすーっと楽になりました。
 その後、登校謹慎の作業はその生徒と一緒に職員室や、トイレを掃除したりしました。職員室はクリーム色の壁でしたが、壁を拭くと、白い壁だったのがわかりました。当時の先生方の多くは、煙草を吸っていました。よく「生徒の喫煙を処分する職員会議なのに、職員室にはもうもうと煙草の煙が上がっている」などと言われた時代です。こんなに白かったのか、と思うほどになりました。また、職員や一年生のトイレの便器の掃除が終わり、二年生のトイレの便器を掃除していると、隣の生徒の手が止まっているのに気づきました。私が一生懸命便器の掃除をしているのに、何を休んでいるのだと思いました。その時、小さな声で「先生ごめん。冬休みなのに俺のために学校に来させて、便所掃除までさせて」と言うのが聞こえました。ああ、生徒も分かっているのだなと思いました。
 そのようなことがあって、生徒が少しずつ話してくれるようになりました。この生徒は、その日の朝も母親から「お前はおっちょこちょいだから、つまらないことをして、先生に迷惑かけるんじゃないよ」と注意され、イライラしたとのことです。でも学校へ行けば友達はいるし、気は紛れるだろうと思って登校したとのことでした。ところが私がまた、朝のショートホームルーム後、その生徒を呼び出して、「お前はおっちょこちょいだから、煙草を吸ったり、万引きをしたりつまらないことをするんじゃないぞ」と注意したものですから、イライラが頂点に達してやってしまったとのことです。以前行ったことのある変形学生服を売る店に行き、前から欲しかった、変形ズボンを、取ってしまいました。しかし、店から出るとき店主に腕をつかまれたので、それを払いのけたところ、店主は転んで、腕の骨を折ったとのことでした。このようなことを考えてみると、W先生の言った「よかった」の意味がみにつまされて分かった気がします。

(『がんばる先生奮闘記』より)