「先生、どうして犯人を捕まえないのですか?」 ~がんばる先生奮闘記~ 後編

 ついに3回目が起きてしまいました。帰りの支度をしているときにAが、「先生、ない」と耳打ちしたのです。直ちに「皆さん、Aさんのカバンからお金が無くなりました。私は君たちが盗むような子だとは思いませんが、念のため隣の人同士で持ち物検査をしてください。皆さんの身の潔白を証明してください」と大声を張り上げました。子どもたちは2人1組になってお互いのランドセルやら机の中、ロッカーの中を調べ合いました。
「先生、あった!」明美がすっとんきょうな声を上げました。(やっぱりか。きっと犯人はお互いに見せ合うことで盗みがばれてしまうため、とっさにAのロッカーに封筒を放り込んだのた。)
「皆がいるときはまずいので皆がいなくなったとき、学級に1人入ってきて盗もうとしたとしか考えられません。誰か独りぼっちで学級にいたということはありませんか?」「・・・」
 「分かりました。誰も1人でこの教室にいたという事実はないのですね」
(もう絶体絶命。ついに犯人が分からずか。まあいいか。3,000円がとられずにすんだのだから。)
 「もしこのことに気がついたことがあれば、先生に教えてください。お願いします。さようなら」皆がカバンを背に帰ろうとしたときに1人の子が「先生、そういえばYちゃんが体育の時、帽子を取ってくるって教室に戻ったよ」と報告に来ました。「皆、待って!Yちゃんが体育の時間に帽子を取りに教室に戻ったってホント?」「ウン。見たよ」という子が何人か声を上げました。「Yちゃん、ちょっと待って。皆はもう帰っていいよ」
Y1人残して教室で向かい合いました。
「Yちゃん、お金を取ったのはYちゃんだったの?」
(危ない質問だ。もし外れたら2人の信頼関係は壊れてしまう。その上、こんなこと聞かれたと親に知られたら親は黙っちゃいないだろう。教師生命をかけた駆け引きである。)
 何を聞いてもYは黙っていました。「Yちゃん、もしYちゃんがやったとしたら、きっと大人になるまでウソをついたことが辛くなると思うよ」「先生は君だとしても誰にも言わないよ」「声に出さなくていいよ。Yちゃんがやったんだよね」
 30分も経ったでしょうか。この質問にYはうなずきました。「よく認めてくれたね。勇気が必要だったでしょ?正直に言ってくれたので先生は君を守るよ」(やった!)心が軽くなりました。あとは、Yの心が傷つかないように事の解決を図らなければなりません。
 「先生はこのことを誰にも言わないと言ったよね。でも1つだけ約束を破らせてください。Yちゃんのお父さんやお母さんには本当のことを報告しなければならないんだ。それでいいかい?」Yは首を横に振りました。「お父さんやお母さんが怖いの?大丈夫、先生からお父さんやお母さんには正直に話してくれたから叱らないでって、お願いするよ」Yは不安そうに帰っていきました。
 その日の夕方、電話を入れてからY宅へ家庭訪問しました。ことの成り行きを報告して、「人のものに手を出すには何らかの悩みや不安が彼女にあったと思われます。何か心当たりはありますか?」
 「先生、最近赤ちゃんが産まれて2人ともそれに関わりっきりで・・・。そういえばなにも相手してあげなかったです。もしかしたら、それですか?」「多分そうでしよう。彼女はほったらかしになったため寂しくて友達の気を引きたくて、盗んだお金でいろいろ買って友達にあげていたかもしれません。どうか、彼女にも声をかけたり相手をしてあげたり寂しい思いをしないよう心掛けてください。最後に彼女を叱らないでください。彼女と約束したのです。お父さんとお母さんが怖いので正直に話せなかったので、正直に話したら先生が守ってあげるって。よろしくお願いします」(もの分かりのよい保護者でよかった。)
 以後、我がクラスから盗みはなくなりました。
 翌日、「もう、お金が無くなるようなことはないと思います。だけど、お金を持ってきたら先生に帰りまで預けてください」とだけ言って幕引きにしました。子どもたちもそれ以上詮索もすることなく、この後も仲良く過ごしていました。

 その後、私が公民館に勤務している時、成長し美しくなったYさんが来館して赤ちゃんを見せてくれました。もう事件なんか忘れてしまったのかも知れません

(『がんばる先生奮闘記』より)