「先生、どうして犯人を捕まえないのですか?」 ~がんばる先生奮闘記~ 前編

 「先生、どうして犯人を捕まえないのですか?」
 2学期の学級懇談会でのある保護者からの発言です。

 2か月前の帰りの会の後、Aが「先生!」と声をかけてきました。
 「どうしたの?」「先生、私、塾に払うお金を3 ,000円なくしちゃった」
 「どうしてなくしちゃったの?」「朝、ランドセルに入れて持ってきたんだけど、いつの間にかなくなちゃったの」「そりゃ大変だ。もう一度、持ち物を確かめてみよう。お金はどこに入れておいたの?ランドセルを持ってきて」そう頼んでから一緒に探しました。ランドセルだけでなくて、机の中もロッカーの中も……。しかし、お金を入れた封筒は見つかりませんでした。
 「今日は仕方がないからこのまま塾に行ってお金が無くなったことをお母さんに話しなさい。辛いけれどね。先生からもお母さんに報告しておくね」
(なくしたとは言うけれど、これはきっと盗まれたものに違いない。)
 「明日の朝、このことについてみんなに話して応援してもらっていいかい?」と彼女から承諾を得ました。
 翌日、「皆さん聞いてください。昨日、Aさんの大切なお金3 , 000円が消えてしまったのです。Aさんが落としたのかもしれないし、誰かに取られてしまったのかもしれない。封筒に入っているからもし拾ったら先生に届けてください。誰かに取られたとしたら誰だろう?皆さんを山川学級少年少女探偵団の一員として認めます。ぜひ、探し出してください」と子供達に訴えました。
 (万が一、このクラスに犯人がいたとしても犯人がこれはまずいと思ってこれ以上盗みをしなくなったらこのまま許してあげよう。だからお願い、これでこの事件は終わりにして……)
祈るような気持ちでした。
 ところが1ヶ月後、再びAの3 , 000円がなくなってしまいました。この時も帰りの会が終わってからのAからの報告で分かったことでした。何人か残っているものの、三々五々教室を出てしまっています。
万事休す。「A、これはきっと盗まれたんだよ。だから、皆がいなくなってからでは、皆に相談しようがないんだ。嫌なことだけど、もしこの次にあったら、皆がいるうちに教えて?」
 (彼女にとって2回目。辛い気持ちがよく分かる。今回も家庭に連絡を入れ、事件の解決が図れなかったことを謝罪し、3回目が起きたら今度こそ解決させますということで猶予をいただきました。2回も取られるということは嫌な話だが、自分の子としか考えられない。とっ捕まえたらつらいだろうな。)
 翌日、子供達に訴えました。「昨日もAさんのお金が無くなった。Aさんが2回も落とすようなことはない。きっと誰かが盗んだとしか考えられない。皆がクラスを空けたとき誰か入ってきたのかもしれない。君たち探偵団員は全力を挙げて誰も入らないように見張ってください。君たち78の眼と先生の眼合わせて80も眼があるんだから今度こそ捕まえよう!」「オーツ!」子供達が応えてくれました。
 (ここまで、追い詰めれば犯人はやばいと思ってもう盗むことはないだろう。頼む、盗まないで!)
 冒頭の言葉は、2回も盗まれたことに対する保護者からの意見です。
 「子どもたちを徹底して調べれば、このように何回も起らなかったのではないですか?」
 「それはそうかも知れませんが、もし私が皆を犯人かも知れないと疑って調べたら、お宅のお子さんも犯人と疑われることになるのですよ。それでもいいのですか?」「・・・」
 「ですから、次に起きたときは80の眼が光っている中で起きる訳ですから、盗んだ子が判明するかも知れません」
 (犯人を突き止める自信もないくせにその場を切り抜けるために言い切ってしまった。もう、後がない。この次起きたらどうしよう?)

後編は4月22日に配信予定です。

(『がんばる先生奮闘記』より)