元気なK君の山登りの挑戦 ~がんばる先生奮闘記~

「うめーなあー・・・これ紅茶?こんなの初めてだよ」ほほ笑むK君。
残雪を携帯コンロで解かしてお湯を作り、紅茶パックと砂糖を入れたティーだ。
「美味しいかい?」「うんうめー なあ」挑戦した甲斐があった?「ううんー」
 K君の顔には登り切った安堵感が漂っていました。それは疲労困憊と寒さを温かい紅茶がK君の心を落ちつかせてくれたのでしょう。残雪が朝日に輝いて来た。
 下山後のK君の生活はすっかり変わってきたようでしたが正直なところ、荒療治だったかな?と不安もありましたが・・・。一緒に登頂したS君からの話しでは疲労もすっかり取れ、クラスの仲間との会話も多くなったといいます。

 当時、K君を担任にして三ヶ月余りが経っていました 。K君の自由奔放で先生にも反抗する態度は相変わらずでした。どうしたものかと思案の日々が続きました。 そんな時、ふとK君を連れて山登りでもしてみようかなと思いました。山の力を借りよう。管理職にも相談をし了解をもらいました。
 山登りのルールは厳しい。一方、自然の美しさはまた格別です。いずれにしろ頂上に立ったら人の心に何か変化があるかも?K君に山登りで自分との戦いをさせてみよう。そう思いました。山は自然の宝庫で、自分を見つめる優れた教材でもあり、心身を鍛える場でもあります。
 実行計画では、参加者は三人。言うまでもなく、山登りは原則として無言、水を飲むのも最小限、休憩は大小として小は立ったまま、大も長過ぎない、歩くペースもパーテイーのリーダーに合わせる等、全く自分勝手は許されません。
 先頭は S君、次にK君、そして私です。片道五時間半は初中級程度の登山です。この計画はK君の心を変えるに必要な負荷を考え、S君とも十分に打ち合わせていました。打ち合わせのポイントは特に歩行スピードと休憩に置きました。休憩では、短からず長からずとしてK君の心身の葛藤を重視しました。山歩きは苦しいの一言です。
 結果は冒頭のようなK君のほほ笑みが全てを語ってくれました。頂上からの眺めは、三百六十度の大パノラマでした。
 K君は中学一年から教師にも盾突く元気者の一人でした。二年生になり、私が担任となったのでした。学級での指導、 仲間作り、家庭訪問等一通り実行したが今一つ心が通じませんでした。
 そこで、生徒会長でマラソン優勝者のS君と相談して、K君の心に響く何か出来できないか?かなり危険ではあるが、私の山岳部時代の経験を生かせばという提案で山登りをしました。しかもどうせやるなら名山にしようと決断したのです。
 ねらいはとにかく我慢する心、やり切る成功体験を通しての感激・感動を知り、そのことで自分に自信を持ち素直な心が少しでも仲間たちに示せればということでした。その後、K君、S君を中心にトレッキングやキャンプ等楽しみました。

 最近、K君、S君たちの還暦の会に招待されました。K君は経営者、S君は新幹線通勤できる大きな会社の社員と成長していました。               

(『がんばる先生奮闘記』より)