「先生、私を嫌いにならないで!」~学校のちょっといい話~

 私の勤務校は、六年制中高一貫校です。高校ばかりを担当していた私は、その年、初めて中学三年の学級を担任しました。中三と高一とでは、たった一年の違いしかないはずなのに、初めて中学生と接する私は、そこに大きな溝があるように感じていました。先生と生徒との交換日記のような「生活ノート」も珍しく、なんだか気恥ずかしいような思いで、一言ずつコメントを書いていました。
 最初の道徳の授業で、「親孝行」の話をしました。卒業していった生徒たちが在学中に書いた作文を紹介しながら、親に対する私自身の思いや、親になってみてのわが子に対する思いを語るといった内容で、これまで高校生に何度か授業をして、ある程度生徒たちの心に響いたのではないかと手ごたえを感じていた授業でした。生徒たちの反応を確かめつつ、いつものように授業を進めていきます。すると何と、ある一人の女生徒(真面目な生徒です)が、こっくりこっくり居眠りを始めたのです。私はたいへんショックを受けました。私自身の心からなる言葉で一生懸命生徒たちに語りかけているのに、生徒は寝ている…。中学生には通じないのかな、まだ年齢的に無理なのかなと思いつつ、授業を続けました。結局、その生徒は最後まで眠り続けました。
 その日の生活ノートに、その女生徒がこんなことを書いてきました。
「先生、ごめんなさい。道徳の時間、先生が一生懸命に話をしてくれたのに、私はついウトウトしてしまって・・・。友達がみんな感動したって言っているのに、私は居眠りしてしまって・・・。先生、お願い、私のことを嫌いにならないで!」
 私はその生活ノートを読んで、正直、感動しました。中学生って何て素直なんだろう、どうして自分の気持ちをこんなに素直に言葉にできるのだろうと思いました。中学生に受け入れてもらえるだろうかと少し不安に思っていた私は、「私のことを嫌いにならないで」というひと言に、生徒の方こそ先生に愛されたい、かわいがってもらいたいと思っているのだと改めて気づきました。そして、こんなコメントを書きました。
「中学生って、何て素直なんだろう。感動しました。もちろん、嫌いになんかなりませんよ。これからもよろしく!」
 結局、その生徒はそれから四年間、私の学級で、高校を卒業していきました。卒業前の最後のロングホームルームで、生徒たち一人ひとりが、六年間を振り返っての思いを、みんなの前で発表しました。その時のその生徒の言葉。
「中学三年の時の最初の道徳の授業で、先生が一生懸命に話をしてくださったのに、私はどういうわけか居眠りをしてしまいました。先生にとても失礼なことをしてしまったのに、先生はそれからもずっと、私をかわいがってくれました。それが六年間で一番印象に残っていることです。先生、ありがとうございました。」 

(『学校のちょっといい話』より)