映画のような卒業式~学校のちょっといい話~

私が校長三年目の時、映画のような卒業式に出合いました。
六年生担任のA教諭は、児童思いの先生です。しかし、口が悪いために誤解されることがありました。A教諭のことを知らない他の学級の保護者からは、児童への叱り方や冷たい接し方をする、ひどい先生がいるという苦情を寄せられたこともあります。しかし、A教諭を知っている保護者からは、A教諭への信頼は厚いものがあります。B君の保護者もその一人でした。A教諭の学級には、病弱なB君がいます。一週間に一、二日ぐらいしか登校できません。友達がいじめたり先生がいやだったりするわけではありません。学校が大好きで、将来は科学者になりたいという夢を持っています。登校すると一生懸命に勉強したり、仲良く友達と過ごしたりしています。しかし、次の日は疲れて、学校に来られないのです。
六年の三学期、卒業間近になって、体調がますます悪くなり、一週間一日も来られないこともありました。担任のA教諭は、毎日のように連絡をしたり家庭訪問したりして、元気づけました。B君も学校に行きたい気持ちはたくさんありますが、朝になると体が動かなかったり嘔吐したりすることもありました。
三月になって、私は担任と卒業式をどうするか相談しました。私が家に行ってもいいし、体調のいい日に校長室で卒業証書を渡してもいいし、卒業式の証書の渡し方を工夫してもいいよと提案をしました。担任とB君と保護者とが相談をして、いつになるか分かりませんが、卒業式の壇上で卒業証書をもらうことを決めました。
卒業式の日になりました。B君は、朝、登校できませんでした。卒業証書授与も終わり、卒業式は最後の校歌斉唱だけになりました。私は、「B君はだめか。」とあきらめていました。校歌斉唱も最後の三番の後半になりました。A教諭は、突然、体育館のドアを開けるよう、係に合図を送りました。隣にいた私は、「先生、退場はまだです、ドアを開けるのは早いですよ。」と小声で言いました。A教諭は、「B君が来たんです」と言いました。
誰にも聞こえない音でした。しかし、A教諭にはドアをたたく音が聞こえたのです。係がドアを開けると、そこにはB君とお母さんが立っていました。校歌斉唱は終わりました。
それから、数分後。みんなの前で、A教諭の呼名で、私はB君に卒業証書を手渡していました。会場のみんなから割れんばかりの拍手が起こりました。 
 

(『学校のちょっといい話』より)