夢と志 ~ 道徳授業で使えるエピソード~

今回は、「夢」と「志」について考えます。

■つまらなくなった大学生活

洋平君は大学2年生、剣道部に所属しています。入学してからの1年間は、授業と部活動で無我夢中に過ごしてきました。ところが今は、部活動から足が遠のいています。
幼いころ病弱だった洋平君は、両親の勧めで剣道教室に入門し、高校時代には全国大会にも出場しました。明けても暮れても剣道中心の生活を送ってきた洋平君は、大学生になったら思いっきり羽を伸ばしたいと思い描いていたのです。
ところが、授業が終わると厳しい稽古、土日もなく、高校までの生活とたいして変わりませんでした。そして、“剣道ばかりやっていていったい何になるんだろう”と思うようになりました。また、将来についても、好きな剣道を生かして子供たちと関わっていける道を、という漫然とした思いはありましたが、特に具体的な目的や夢があるわけでもありません。

■“少年よ、大志を抱け”

2か月後、小学生を対象とした剣道の合宿セミナーに、洋平君の姿がありました。
剣道師範・竹田先生は、洋平君が通っていた剣道教室の先生です。最近の洋平君の生活ぶりを心配した両親から相談を受け、声をかけてくれたのでした。
洋平君はスタッフとして、稽古の手伝いや生活面でのお世話をしています。
この3泊4日の剣道セミナーは、稽古のほかに、心の修養を目的とした「学びの時間」が組み込まれているのが特徴です。
その1つに、朝礼と夕礼に行われる暗唱があります。明治時代に札幌農学校(現北海道大学)の初代教頭だったクラーク博士の言葉「ボーイズ・ビー・アンビシャス(少年よ、大志を抱け)」を暗記し、唱和するのです。

少年よ、大志を抱け。
しかし、金を求める大志であってはならない。
利己心を強める大志であってはならない。
名声という、つかの間のものを求める大志であってはならない。
人間としてあるべきすべてのものを求める大志を抱きたまえ。

午後の「学びの時間」は、「少年よ、大志を抱け」についての勉強です。
「君たちは、“志”ってどういうことか分かりますか?」
「夢かな」「そう、夢だよ、きっと」
「夢ですか? それでは、画用紙に君たちの将来の夢を絵にかいてください」
講義と聞いて少し堅くなっていた子供たちですが、一気に緊張がほぐれ、それぞれの夢を自由にかき始めました。
「洋平、おまえも将来の夢をかいてみるか?」
「夢らしいものはありますけど、子供たちみたいに憧れだけの幼稚な夢はかけないなぁ」
その言葉を聞いて竹田先生は、
「いいや、俺はそうは思わんぞ。子供たちが描くどんな夢にも、実現する可能性は充分にあると思うよ。夢というのは、実現したいと強く思い描く、将来の理想の姿じゃないかなあ? 最初から実現しそうもない憧れだと思っていたら、それは夢じゃない」
「実現したいと強く思い描く、将来の理想の姿かぁ……」
洋平君の口からは、思わず竹田先生の言った言葉が漏れたのでした。

■人々の幸せに役立つ夢

「みんなすてきな夢がかけたかな。ここでその夢についてもう少し考えてみようか。もしも、君たちの思い描いた夢が、自分さえ楽しく幸せであればいいというような、自分中心の夢だったらどうだろう? その夢が実現したとしても、本当に幸せだと言えるだろうか?」
「それはクラーク博士が戒めている、お金を求めたり、利己心を強めたり、名声を求めたりすることと同じだと思わないかい? そうではなく、周りの人を幸せにする、人々の幸せに役立つ、そういう夢が叶ったときが本当の幸せと言えるんじゃないかな」
竹田先生は、子供たちに問いかけながら講義を進めていきます。
「先生はね、志とは、自分の夢がどうしたら人々の幸せに役立つかということを常に考えていくことだと思うんだ。」
洋平君は、竹田先生の言葉がなぜか自分に向けられているように思えるのでした。
「それでは、これから作文を書いてもらいます。どうしてこの夢にしたのか、どうしたら夢が人々の幸せに役立つのか、この2つを考えながら書いてください。作文は最終日の立志式で発表してもらいます」

■ケーキ屋さんの夢

いよいよ最終日。作文には、夢を人々の幸せに役立てたいという子供たちの気持ちが、素直に書かれていました。
その中に、小学3年生の女の子がいました。

「わたしは、しょうらい、ケーキ屋さんになりたいです。どうしてかというと、ケーキを買いに来るお客さんは、みんなニコニコ笑顔になるからです。わたしは、ひとの笑顔を見ると幸せな気持ちになります。ひとが幸せになって笑顔になるケーキ屋さんは、すてきなしごとだと思います。そして、ケーキの作り方を研究して、アトピーなどアレルギーを持っている子供でも、安心して食べられるケーキをたくさん作りたいです」

ケーキ屋さんになりたい――女の子なら誰でも1度は考えるような夢です。しかし、「人々の幸せに役立つ」という志を立てたことで、あどけない少女の夢が、人間として価値のある将来の理想の姿に変わったのです。それは、まさに「大志」といえるものです。
洋平君は、今まで将来について漫然とした思いしかなかった自分を、恥ずかしく感じたのでした。

■洋平君の立志

剣道セミナーから半年後、洋平君は自分がひと回り大きくなったと感じています。
彼の部屋には、1枚の絵があります。背広を着た男性が教壇の黒板を背にして立っている絵――タイトルは「教師になる!」とあります。
「私は教師になりたい。人生を豊かにする読書や、文章を書くことの楽しさを子供たちに伝えたい。点数や成績で子供を評価するのではなく、1人ひとりの持ち味を理解し、引き出し、育てることのできる教師になりたい。剣道を通して、子供たちといっしょに汗を流したい。常に、人々の幸福を願える人間になりたい」
洋平君の夢は、もう漫然とした思いではありません。人々の幸せに役立ちたいという志によって、「教師になる!」という確固とした人生の目標となったのでした。
私たちの人生において、だれもが自分の夢を実現できるわけではありません。しかし、たとえ夢が叶わなかったとしても、人々の幸せに役立ちたいという大志があれば、次の目標(夢)を持ち、それに向かって歩むことができます。大志があれば、新しい夢や目標を求め続けることができるでしょう。

(『ニューモラル』437号)

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