なぜ会社で親孝行を教える? ~ ビジネス朝礼で使えるネタ Case4~

すっかり日も暮れた12月のとある夕方、商工会議所の例会を終えた3人が、なじみの居酒屋に流れています。3人は、昭和50年代前半に地元の商業高校を出た同窓生で、現在はみな「社長」と呼ばれる立場。つまみがそろったところで、やがて話題は、会社の社員教育事情へ……。
社長A「この前、顧問税理士の先生から紹介されたコンサルタントに丸1日、社員教育をやってもらったんだよ。人材育成のプロっていうことでさ」
社長B「へえ。それでどうだった?」
社長A「よかったよ。すごく経験豊富な人で、社員も真剣だったし。それで最後の帰り際、お礼を言ったら、その先生が『親孝行ができる、いい社員さんを育ててください』って言ったんだよ」
社長B「親孝行? なんで?」
社長A「なんでだっけな」
社長C「そういえば最近、社員に親孝行を奨励している会社の話、よく聞くよ。人間力向上の一環ということでさ。マヨネーズで有名なQ社も、社是社訓に『親を大切にすること』を掲げてるそうだよ」
社長AB「へぇー」
社長C「でも、どうかな。親子関係まで会社が首を突っ込むっていうのも。親を大切にすることと、仕事のパフォーマンスにどういう関係があるんだ?」
社長A「さあ……、今度先生に詳しく聞いてみるかな」

◆Step1 恩に鈍感な人間によきサービスはできません

孝は百行の本なり ―― ホスピタリティの源は孝行心

昨今、「ホスピタリティ(もてなし)」という言葉がホテル業や飲食業のキーワードとなっています。期待水準の高い消費者に、いかにその期待以上のサービスを提供するか。いわば従業員個々の人間力で勝負する「心のサービス競争」の時代です。では従業員のサービスマインドはどうすれば高まるのか。そのカギを握るのが「親孝行」です。ホスピタリティ論の第一人者・力石寛夫氏はこう説きます。「両親や家族に対する感謝の心、(略)そんな自分の最も身近な人々に対するホスピタリティ(略)のない人が、どうしてお客様に対して心からのおもてなしができるのでしょうか」と。
このことは中国古典の「孝は百行(ひゃっこう)の本」(親に孝行を尽くすことは、人のためにする諸々の善行の基本である)という教えと符合します。
しかし、今の日本の若者にはこの親孝行意識が想像以上に育っていません。平成16年発表の『高校生の生活と意識に関する調査』(日本青少年研究所)によると、「親に反抗する」ことを「よくない」と答えた人の割合は、韓国84%、中国70%に対し、日本はわずか19%。今、企業は社員の人間教育に際して、まず「親孝行」の意義から教えるべき状況にあるのです。

◆Step2 親孝行は家庭のみの道徳にあらず

抵抗なく社員に親孝行を説くには ―― 業務上の心づかいと関連づけよう

では、どうやって社員に親孝行を説けばよいのでしょうか。正面から親孝行を“家庭の道徳”として説けば、「家の親子関係まで細かく指図(さしず)するのか」と若い社員から反発を受けかねません。孝行心をうまく業務上の心づかいと関連づけて説くことがポイントです。
「親孝行人間大好き企業」を理念に掲げ、和食レストランを関東に約60店舗展開する(株)坂東太郎(ばんどうたろう)では、次のような独自の考え方で“親孝行教育”を行っています。まず「ばんどう太郎の『親』とは、目上の人、上司、先輩、親、すべてお世話になった人を親と言います」と定義し、さらに「『孝』とは、相手に理解していただくまで誠心誠意人に尽くすことです。ばんどう太郎の『行』とは、自らの行動で実行し続けることです」としています。つまり、日々の行動指針=親孝行の実践と位置づけたわけです。
こうした理念の繰り返し学習に加え、同社では親孝行実践の機運を高める舞台装置として、新入社員の入社式を立志式とみたてて父兄立会いの厳粛な式典としたり、地域の小中学生対象の「親孝行」作文のコンクール等も開催。業務の中で親孝行を常に意識する仕組みづくりを行っているのです。

◆Step3 親をよく養うは“小孝”なり

親孝行教育の目的をどこに置くか ―― 形から心へ、真の孝心を養うべし

社員に親孝行の実践を促すべく、毎年時期を決めて、数千円から1万円程度の「親孝行手当」を支給している企業があります。「いざとなると照れくさくて……」と実行に踏み切れない社員の背中を押す効果があり、報告のレポートを課す例もあります。最初は義務感が先に立つ、形だけの親孝行でも、回を重ねるうちにだんだんと孝心に目覚めていくケースも多く、経営者は長い目で効果を見守る姿勢が肝要です。
と同時に、経営者は次のことを理解しておく必要があります。それは『礼記』が示す「孝に三あり。大孝は親を尊ぶ。其の次は辱(はずかし)めず。其の下は能(よ)く養う」という孝行の“本質”についてです。金銭的、物質的に両親を支え、養うことは、親孝行としては初歩である。常に親の恩に感謝し、本心から親を侮(あなど)らず、敬愛することこそが真の親孝行であるということです。
ハードルが高そうですが、モラロジーの創建者・廣池千九郎(ひろいけちくろう)はこれを転じて「親孝行は親にご安心頂くということが第一の眼目」と説いています。今後は親に心配をかけぬよう、健康で平和な家庭と人生を築く努力をしていこう。そう本人に人生の動機・目的を捉え直させることが、親孝行教育の眼目なのです。

◆Step4 教育の基本は上位者の率先にあり

常に心に親の温顔を ―― 両親亡き後も孝行は尽くせます

親孝行教育の最後のポイント。それはどんな教育にも言えることですが、トップや上の立場の者が率先して実行に励むことです。中にはすでに両親が他界した方もいるでしょうが、亡き両親の仏壇やお墓に欠かさず手を合わせたり、あるいは「死んだ親父に安心してもらえるように」等の動機で、日々事業や家庭生活に誠実に取り組むことも孝行の実践といえます。
そうして常に親の心を慮(おもんぱか)るようになることで、毎日顔を合わせる部下や社員にもまた、彼らを案ずる故郷の親がいるのだという、当たり前な事実にあらためて気づくはずです。どの社員も、それぞれのご両親から育成を託された、いわばダイヤの原石であるとの意識で、ねばり強く、温かく教え導いていくことが肝要です。
どうすれば親を安心させられるのか、喜んでもらえるのかと、誠心誠意、道徳的に知恵を絞る努力は、着実にその人の品性を向上させます。「親を愛する者は、敢えて人を悪(にく)まず」(『孝経』)です。これは経営者にも社員にも人間すべてに共通する真理です。そうして蓄積された品性が人間力の源として日々の業務の中に生き、社内の人間関係やお客様への対応など随所に木漏れ日のような温かさを添えるのです。

(『道経塾』No.52より)

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